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横浜地方裁判所 平成5年(ワ)2744号 判決

原告

杉村茂

外一八名

右原告ら訴訟代理人弁護士

伊藤幹郎

星山輝男

飯田伸一

杉本朗

横山國男

岡田尚

小島周一

三木恵美子

芳野直子

山崎健一

根岸義道

堤浩一郎

岩橋宣隆

山田泰

小口千恵子

根本孔衛

篠原義仁

児嶋初子

藤田温久

三嶋健

陶山圭之輔

佐伯剛

小野毅

小賀坂徹

三浦守正

右原告ら訴訟復代理人弁護士

上条貞夫

被告

日本鋼管株式会社

右代表者代表取締役

下垣内洋一

右訴訟代理人弁護士

高島良一

賀茂善仁

主文

一  原告らの請求第一項の訴えをいずれも却下する。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  各原告が、被告との間において、平成五年度以降各原告が退職するまでの間、新賃金制度において各年度のべースアップ後各原告が受ける基準内賃金から別表一記載の各原告の「原告主張、月額格差」欄該当各年度記載の金額を控除した基準内賃金の支払を受けるべき労働契約上の地位を有することをそれぞれ確認する。

二  被告は、各原告に対し、別表一記載の原告の「原告主張、年間増減累計」「年齢、五九歳」欄記載の金額の絶対値による金員をそれぞれ支払え。

第二  請求に対する答弁

一  主位的答弁

1  請求第一項に対する答弁(本案前の答弁を含む)

(一) 原告杉村茂(以下「原告杉村」という。)、原告梶田文也(以下「原告梶田」という。)、原告大山雅嗣(以下「原告大山」という。)、原告高間秀泰(以下「原告高間」という。)に関する第一項の請求をいずれも棄却する。

(二)(1) 原告岡崎悦明(以下「原告岡崎」という。)に関する第一項の請求のうち、平成五年度及び平成一二年度の部分をいずれも却下する。

(2) 原告岡崎に関する第一項の請求のうち、平成六年度ないし平成一一年度の部分をいずれも棄却する。

(三)(1) 原告城谷護(以下「原告城谷」という。)に関する第一項の請求のうち、平成五年度ないし平成七年度及び平成一二年度の部分をいずれも却下する。

(2) 原告城谷に関する第一項の請求のうち、平成八年度ないし平成一一年度の部分をいずれも棄却する。

(四)(1) 原告金原徹(以下「原告金原」という。)に関する第一項の請求のうち、平成五年度ないし平成八年度、平成一二年度及び平成一三年度の部分をいずれも却下する。

(2) 原告金原に関する第一項の請求のうち、平成九年度ないし平成一一年度の部分をいずれも棄却する。

(五)(1) 原告松原和江(以下「原告松原」という。)に関する第一項の請求のうち、平成五年度ないし平成七年度、平成一二年度及び平成一三年度の部分をいずれも却下する。

(2) 原告松原に関する第一項の請求のうち、平成八年度ないし平成一一年度の部分をいずれも棄却する。

(六)(1) 原告渡辺武夫(以下「原告渡辺」という。)に関する第一項の請求のうち、平成七年度、平成八年度及び平成一二年度ないし平成一六年度の部分をいずれも却下する。

(2) 原告渡辺に関する第一項の請求のうち、平成五年度、平成六年度及び平成九年度ないし平成一一年度の部分をいずれも棄却する。

(七)(1) 原告本橋進一(以下「原告本橋」という。)に関する第一項の請求のうち、平成五年度、平成八年度及び平成一二年度ないし平成一七年度の部分をいずれも却下する。

(2) 原告本橋に関する第一項の請求のうち、平成六年度、平成七年度及び平成九年度ないし平成一一年度の部分をいずれも棄却する。

(八) 原告太田進一(以下「原告太田」という。)に関する第一項の請求をいずれも却下する。

(九)(1) 原告菊地輝男(以下「原告菊地」という。)に関する第一項の請求のうち、平成六年度、平成七年度及び平成一二年度ないし平成二〇年度の部分をいずれも却下する。

(2) 原告菊地に関する第一項の請求のうち、平成五年度及び平成八年度ないし平成一一年度の部分をいずれも棄却する。

(一〇)(1) 原告吉井寛(以下「原告吉井」という。)に関する第一項の請求のうち、平成六年度ないし平成八年度及び平成一二年度ないし平成二〇年度の部分をいずれも却下する。

(2) 原告吉井に関する第一項の請求のうち、平成五年度及び平成九年度ないし平成一一年度の部分をいずれも棄却する。

(一一)(1) 原告安河内了(以下「原告安河内」という。)に関する第一項の請求のうち、平成六年度、平成七年度及び平成一二年度ないし平成二〇年度の部分をいずれも却下する。

(2) 原告安河内に関する第一項の請求のうち、平成五年度及び平成八年度ないし平成一一年度の部分をいずれも棄却する。

(一二)(1) 原告梅木哲雄(以下「原告梅木」という。)及び原告吉田章次(以下「原告吉田」という。)に関する第一項の請求のうち、平成六年度ないし平成八年度及び平成一二年度ないし平成二〇年度の部分をいずれも却下する。

(2) 原告梅木及び原告吉田に関する第一項の請求のうち、平成五年度及び平成九年度ないし平成一一年度の部分をいずれも棄却する。

(一三)(1) 原告西島滋夫(以下「原告西島」という。)に関する第一項の請求のうち、平成五年度、平成八年度及び平成一二年度ないし平成二二年度の部分をいずれも却下する。

(2) 原告西島に関する第一項の請求のうち、平成六年度、平成七年度及び平成九年度ないし平成一一年度の部分をいずれも棄却する。

(一四)(1) 原告小坂一夫(以下「原告小坂」という。)に関する第一項の請求のうち、平成五年度、平成八年度、平成九年度及び平成一二年度ないし平成二二年度の部分をいずれも却下する。

(2) 原告小坂に関する第一項の請求のうち、平成六年度、平成七年度、平成一〇年度及び平成一一年度の部分をいずれも棄却する。

(一五)(1) 原告深川悦雄(以下「原告深川」という。)に関する第一項の請求のうち、平成九年度及び平成一二年度ないし平成二三年度の部分をいずれも却下する。

(2) 原告深川に関する第一項の請求のうち、平成五年度ないし平成八年度、平成一〇年度及び平成一一年度の部分をいずれも棄却する。

2  請求第二項に対する答弁

原告らの請求第二項をいずれも棄却する。

二  予備的答弁

原告らの請求をいずれも棄却する。

第三  事案の概要

一  争いのない事実等(当事者が明らかに争わない事実を含む。)

1  被告は、鉄鋼の製造及び販売等を目的とする株式会社であり、造船・重機の工場として、鶴見、清水、津の三製作所を有し、資本金額は二三三七億三一〇〇万円、従業員数は約二万二〇〇〇人である。

原告らは、平成四年当時、被告の鶴見製作所に在籍し、日本鋼管重工労働組合(以下「組合」という。)の組合員であった。

2  被告は、昭和五五年一〇月、組合に対し、それまでの五五歳定年制から定年を順次六〇歳に延長することを主な内容とする「定年延長と従業員管理制度の改訂」の提案を行い、組合との間で妥結・調印後、昭和五六年四月から実施した。右制度改訂による六〇歳定年制が確立したのは、平成三年度からであった。

3  被告は、平成四年一〇月一五日(以下、平成四年中の事柄については、年の記載を省略する。)、組合に対し、社員、役職、賃金、出向・社外派遣など被告の従業員に関する各種の主要な制度のほとんどを改訂することを内容とする従業員管理諸制度の改訂案を提案した。右の提案のねらいについて、被告は、従業員向けの小冊子において「NKKの二〇〇〇年のあるべき姿を明らかにした『ニュー・フューチャー・ヴィジョン』に示された総合エンジニアリング部門の将来像を実現するためには、強靱な企業競争力をベースに、安定的な収益の確保と着実な事業拡大を図っていかなければなりません。そのためには、従業員の皆さん一人ひとりに『持てる能力を最大限に発揮』していただかなければなりませんが、今回の提案は、そうした観点に立って、検討を行ってきたものであります。」と説明した。

右の改訂案のうち、賃金制度の改訂内容のポイントは以下のように説明されていた。

(一) 基本給

本給における考課昇給制度を廃止し、六〇歳までの一貫昇給制度に改訂する。

生計費傾向と若年・中堅層の賃金水準是正の観点から、年齢給・年齢加給を廃止し、加給を新設する。

(二) 仕事給

監督技能系社員を対象とする職能給A及び作業給、事務技術系社員を対象とする職能給Bを職能給として一本化するとともに、直接製造現場における職務特性を勘案し、環境手当を新設する。右に伴い、作業給を廃止する。

(三) 業績・能力の適性な処遇の観点に立って、慰労金支給算定式を改訂する。

(四) 会社賃金改訂の趣旨及び役職勇退に伴う職場序列の再見直し等に鑑み、五五歳時において、職能給の相対的な位置づけの見直しを行う。

(五) 今回の改訂に伴う新賃金カーブは、生計費傾向、職務配置実態、業界他社水準との関連から、二〇歳から三〇歳代のアップを図るとともに、総労務費管理の観点から、五五歳を一つの屈折ポイントとして設定する。

右の改訂の理由として、右の従業員向け小冊子においては、「当社の賃金水準は社会水準に比べたとき、高年者は優位にありますが、若年・中堅層は中だるみ化している現象が生じています。」と説明されていた。

4  組合は、一二月一九日の第八七回中央委員会において全会一致で右3の提案を一部修正した内容で被告との間の協定を締結することを決定し、右決定に基づき、被告との間で、同月二五日付け「賃金制度に関する協定書」等(以下「本件協定」という。)を締結した(以下において、本件協定に基づく賃金改訂のことを「本件改訂」といい、本件改訂後の賃金制度を「新賃金制度」、本件改訂前の賃金制度を「旧賃金制度」という。)

二  争点

1  原告らの請求第一項(以下「本件確認請求」という。)の訴えの利益の有無

2  本件協定は有効か無効か。本件協定が有効であるとして、その効力が原告らに及ぶか否か。

3  原告らは、新賃金制度下の賃金と旧賃金制度下の賃金の差額を賃金請求として請求するところ、請求第二項(以下「本件給付請求」という。)の請求額の当否及び口頭弁論終結時以降の部分についての訴えの利益の有無

三  争点1に関する当事者の主張

(被告)

1 原告らの本件確認請求のうち、平成五年度ないし平成一一年度にかかるもので被告が却下を求める部分について

原告らは、右の部分においては、現実に受給した基準内賃金よりも低額の基準内賃金を受けるべき地位の確認を求めているのであり、このような訴えには訴えの利益はない。

2 原告らの本件確認請求のうち、平成一二年度以降の部分について

原告らは、右の部分においては、一定の算式に基づき計算される将来の賃金を受けるべき地位の確認を求めているが、原告らの賃金は、被告と労働組合との間の協定によって決定されるものであり、将来における賃金制度や賃金額が決定されているとはいえず、原告らの主張するような地位を確認しても根本的な紛争解決にならないから、即時確定の利益を欠き、原告らのこの部分の訴えは不適法である。

(原告ら)

1 被告主張の1について

原告らは、本件改訂前の旧賃金制度による賃金の支払を受ける地位の確認を求めているのであり、単年度の賃金を対象とするのではなく、退職までの全年度の賃金を対象としている。したがって、特定の年度における現実の支給額が確認を求める賃金額より高額となったとしても、退職までの全年度を通算した場合に新賃金制度により受ける賃金額が旧賃金制度により受ける賃金額より低額となる以上、訴えの利益はある。

2 被告主張の2について

仮に、将来賃金制度や賃金額が変動する可能性があるとしても、それは事情変更の問題であり、現時点で当事者間には賃金制度の改訂の効力に争いがある以上、将来の賃金額の確認を求めることには、即時確定の利益があるというべきである。

四  争点2に関する当事者の主張

(原告ら)

1 被告の新旧賃金制度及び本件改訂による労働者の不利益について

(一) 被告の旧賃金制度における基準内賃金は、基本給に職能給と作業給を加えたものであり、基本給は、本給、年齢給及び年齢加給から構成される。新賃金制度における基準内賃金は、基本給に職能給を加えたものであり、基本給は、本給及び加給から構成される。

(二) 五五歳以上の者の賃金は、基本給部分と職能給部分の双方において本件改訂により減額されることになる。基準内賃金は、標準モデルによると、五五歳以上の者については、旧賃金制度による額よりも新賃金制度による額の方が年齢によって月額一万八七〇〇円から一万〇九八〇円の範囲で減額されることになる。

また、五五歳に達した労働者については、基準内賃金が直前よりも月額三万一五六一円減額されることになり、この額は、標準モデルにおける五四歳の者の基準内賃金の8.8パーセントにも及ぶ大幅な減額である。

(三) さらに、実際の労働者の賃金が新賃金制度に移行する際には、移行措置が採られる結果、標準モデルよりも少ない賃金しか得られないことになり、その結果、五四歳以下の者でも、基準内賃金について旧賃金制度による額より新賃金制度による額の方が少なくなる者がいるし、五五歳以上の者についての賃金の減額は右に述べた額よりも増大する。

被告は、五五歳以上の者の基準内賃金は、旧賃金制度による額に比べ新賃金制度による額の方が大幅に減額されるが、五四歳以下の者の基準内賃金は、旧賃金制度による額に比べ新賃金制度による額の方が増額されると説明してきており、右の移行措置に関する事実の説明はなかった。

(四) また、生涯賃金が旧賃金制度と新賃金制度でどのように変化するかという説明はなされていなかったが、生涯賃金額は、本件改訂時に四〇歳以上に達していた者について減少することになる。

2 本件改訂における合理性の欠如

(一) 本件改訂の前の平成二年度ないし本件改訂後の平成四年度において、被告は、経常黒字を出していることからすると、本件改訂は、被告の経営が困難になったために行われたものではない。

たしかに、若年労働者の減少傾向の中でその確保が問題となっていて、若年層の賃金水準を向上させることが必要ではあるが、そのための方策は、本件改訂のように総労務費一定の枠内でなすべきではなく、別の原資によってなすべきである。

(二) 被告は、本件改訂に当たり、被告の賃金水準が高年層においては社会水準と比べて優位にある旨の説明をしているが、賃金センサス等の指標に照らしても決して高いとはいえない。

また、被告は、五五歳以降に賃金が減額されることについて、標準的な世帯の生計費が五〇歳のころに最高となり、五五歳以降は相当低下する傾向にあることを挙げるが、実態は、子供が大学に進学した場合の教育費や住宅ローン等の負担があり、五〇歳代においても急激に減少するとはいえない。

被告は、同業他社との比較においても、被告の賃金水準は、若年・中堅層においては優位とはいえないが、高年層においては優位であると説明している。しかし、そもそも造船業界の賃金水準は他産業と比べて低位であるので、同業他社の水準との比較はあまり意味がないばかりでなく、高年層が優位であるとの根拠となった調査は、造船六社の中の三社のみを対象としてなされ、しかも、その中には、造船業界の中で比較的賃金水準が高いとされる三菱重工業と住友重機械工業が調査されていないため、信用し難いし、被告の右調査によっても、優位なのはたかだか月額四〇〇〇ないし五〇〇〇円程度であり、高年層の賃金を減額することを正当化するものではない。

(三) 被告は、本件改訂の理由として、高年者の労働能力が低下することを挙げるが、このような被告の認識は誤っている。確かに体力的には、中高年労働者は若年労働者に比べて劣る面はあるが、体力の低下を補完する技能・経験等の蓄積があるため、一律に中高年労働者の労働能力が低下するとはいえない。

(四) 被告は、本件改訂に当たって、代償措置を用意していない。まず、六〇歳定年制は、旧賃金制度を導入したことの交換条件であり、六〇歳定年制が完全実施されたのが平成三年度であったとしても、このことが本件改訂の代償措置であるというべきではない。また、本件改訂に当たっては経過措置が採られているが、これは、賃金減額の程度を多少緩和するに過ぎず、賃金減額による不利益を補填するという性質を持つ代償措置とはいえない。

(五) 被告の説明によれば、高年層の賃金の減額により生じた原資は、若年、中堅層の賃金の増額に充てられるべきであることになるが、被告社員の年齢別の人数をもとに計算すると平成五年度ないし平成一〇年度において高年層の減額分の総和が若年・中堅層の増額の総和を上回っており、この差額は、被告に蓄積されることになる。しかも、この点について、被告は予測できたはずであるが、労働者に対して明らかにすることなく、本件改訂を行った。職能給の減額についても、被告は成績係数の調整により、高年層の減額分を若年・中堅層に還元すると説明しているが、そのことは本件協定には明記されておらず、実際にそのように行われているかは疑わしいといわざるを得ない。

(六) 右に述べたことに加え、現在の中高年労働者は、年功序列賃金制度の中で将来の賃金上昇を期待して若年時代に低い賃金に耐え、適性な賃金額と実際に受け取る賃金額の差額を会社に預けてきた者たちであり、これらの者の賃金を代償措置なく、一方的に減額することは何ら合理性がない。また、このことは、ILO第一六二号勧告でも示されている、国際的公正労働基準違反である。

3 本件協定締結をめぐる手続的瑕疵

(一) 労働協約が規範的な効力を有するには、個々の労働者の意思が適性に集約された協約意思によって当該協約が締結されたことが必要であり、そのためには、協約意思の集約過程が民主的な手続によることが必要である。しかし、以下に述べるように、本件協定は、このような民主的な手続が一切踏まれないまま組合の意見が集約され、締結されたものであり、規範的な効力を有しない。

(二) 本件改訂により、特定の年齢層の組合員の賃金が切り下げられるという不利益が生じる以上、それらの組合員の意見を十分反映しつつ組合としての意見が集約される必要があり、具体的には、公正な判断資料をもとに民主的に十分討議が行われた上での全組合員による一票投票又は全組合員参加の大会による意見集約が必要である。組合には、規約上一般投票の定めがあり、現に組合規約の改訂に関し、一般投票が行われたことがある。そして、原告らは、組合執行部に対し、本件改訂についての意見集約を一般投票で行うべきことを要求している。また、組合には、組合員全員の大会はないが、六八名の大会代議員からなる組合大会があり、組合の最高議決機関とされている。本件改訂のような組合員の利益に重大な影響を及ぼすような問題については、組合は、臨時大会を開いて組合妥結方針を決定することも可能であったはずである。しかし、組合は、会社提案の詳細な内容が明らかになる前に、早々と本件改訂に対する意見の集約をわずか二六名の中央委員からなる中央委員会で行うことを決めており、一般投票や組合大会の手続を経ることもなく、原告ら不利益を受ける者の意見を聞くこともなく本件改訂に対する組合の妥結方針をまとめていった。さらに、この中央委員の選出方法も、一般組合員は、選挙管理委員会が提出した中央委員のリストに対する一括信任投票ができるに過ぎず、民主的なものとはいえない。実際に、中央委員は、職制組合員やその候補生のような組合員の中から選ばれている。

(三) 本件改訂に対する組合対処方針や組合妥結方針については、職場討議が行われているが、この職場討議も一般組合員の意見を反映するものではなかった。鶴見地区では職場討議の単位となる職場班は全部で二七あるが、そのうち、対処方針か妥結方針についての職場討議を行い、職場採決を行ったのは、七職場班に過ぎず、その他の職場においては、代議員一任により組合員の意見が集約されている。職場採決が行われた七職場においても、採決が拍手で行われたり、挙手の数を正しく数えなかったりするなど民主的な方法による採決とはいえなかった。

(四) 組合員に対し、十分な討論の機会が与えられるためには、組合員に対する正確な情報の提供が必要であるが、本件改訂に当たっては、組合は、同業他社の賃金との比較や、新賃金体系における賃金が将来どのような経過をたどるか等について正確な情報を提供していない。

(五) そもそも労働組合は、労働条件の改善等を目的とする団体であるが、本件協定の締結に当たり、組合は、会社の提案が高年層の賃金を切り下げるという重大な不利益を伴う内容でありながら、原告らの反対の声を取り上げず、被告と本件協定を締結するという労働組合本来の目的を逸脱する行為を行っている。そればかりか、組合は、一一月一九日に開催された中央労使協議会において「それだけに今日までの交渉においては、本制度が円滑に移行できるよう不退転の決意で臨んできたが」と、当初から会社提案を受け入れることを前提とした発言をしている。組合がこのような行動に出たのは、被告が組合を組合内のインフォーマルグループを通じて会社の言いなりになる組織に変容させようとする働きかけを行い、その結果組合が会社に従属する組織に変質してしまったことによる。

4 本件協定の効力

以上の諸点に鑑み、原告らは、本件協定の効力につき次のとおり主張する。

(一) 本件協定の法令等の違反

中高年労働者のいわゆるリストラによる不利益な取扱いは、憲法一三条、一四条、二五条、二七条に違反する。

また、年齢が五五歳に達したことのみを理由に賃金をカットする本件協定は、労働基準法三条の均等待遇の原則に違反する。

さらに、本件協定は、同等の勤労に対し同等の報酬を受ける権利等を定めた国連・世界人権宣言や、公正な賃金及びいかなる差別もない同一価値の労働についての同一報酬を享受する権利を定めた国連・国際人権規約A規約、また、特に中高年労働者について同一価値の労働に対する報酬を他の労働者と差別なく受けるべきこと等を定めたILO第一六二号勧告に違反する。

(二) 一部無効

本件改訂による、賃金制度の変更は社員制度や役職制度の変更と不可分一体のものとはいえないから、原告らは、協約の一部無効の理論により、本件改訂のうち原告らの不利益に変更された賃金規定の部分のみの無効を主張する。

(三) 本件協定の規範的効力について

労働組合の存立のためには、使用者に対する自主性と組合内部の民主性が不可欠である。労働組合が協約により、組合員に不利益を強いる場合には、通常の意思決定手続に比して、組合員の意見がより民主的に集約されるような手続が必要である。そして、個々の組合員は、年齢、性別などの立場を異にすることから、組合員全体の利益調整を図ることは容易ではないが、不利益が一部の組合員層に及ぶときは、不利益を受ける組合員から個別に意見を聞くなどして、協約締結の可否を慎重に検討しなければならず、このような手続が踏まれないまま締結された協約は、規範的効力を有しない。少なくとも、本件改訂により不利益を受ける原告らに対しては、規範的効力が及ばない。このことは、組合員相互の平等の原則からの帰結でもある。

(被告)

1 本件改訂について

(一) 被告の従業員管理諸制度は、組合員籍を有する社員を対象とするもので、組合との協議を経て締結した労働協約によって規定している。本件改訂前の旧従業員管理制度は、社員制度としては職能による区分以外に職種による区分がなされ、また、役職制度として資格制度以外の待遇制度としての性格を有する作業長制度があった。さらに、旧賃金制度においては、本給の定期昇給額は、五〇歳以上の者と五〇歳未満の者で異なり、前者の方が低額となっていた。なお、職能給や作業給は、職種によって、制度及び水準が異なっていた。

(二) 被告は、旧従業員管理諸制度では、制定当時からの状況の変化や将来予測される変化に十分な対応ができず、一人ひとりが意識を変え、持てる力を最大限発揮させる仕組みが必要となっているとの判断から、平成三年一月、右制度の見直しに着手した。見直しに当たっては、①若手労働人口の減少と産業構造における第三次産業の拡大傾向から厳しいものとなっている採用環境に対応するためには若手労働者の処遇を見直す必要があること、②職務の高度化・多様化により、事務技術系社員と監督技能系社員の区別を超えた育成処遇のあり方について検討する必要が出てきたこと、③国内及び国際競争力維持の観点から待遇条件の改善には、総労務費一定の考え方に基づき賃金財源の再配分の視点からの検討をせざるを得ないこと、④年功要素を尊重しつつ、処遇において能力主義を強化することを基本的な考え方とした。

(三) 右の考え方に基づき被告は、組合に対し、概ね以下のような従業員管理諸制度の改訂を申し入れた。

(1) 社員制度については、①職種区分を撤廃し、それに伴い職能区分等の名称・定義を統一すること、②上位職能区分への昇格機会を拡大し、五〇歳を超える社員についても昇格の機会を拡大すること。

(2) 役職制度については、①作業長制度を廃止するとともに、役職者を作業組織における現実の責任者として位置づけること、②役職勇退制度は存続させるが、積極的に再任を実施すること。

(3) 賃金制度については、生計費や同業他社との実態賃金の比較において、被告の賃金は、若年・中堅層においては優位性はないが、高年層においては優位性があること、役職位を離れる五五歳を賃金の屈折点とすることが考えられること、仕事給は職能給に一本化し、作業手当を新設することを前提に以下のような改訂をすること。

①旧賃金制度における本給から年齢毎の一定額を控除して新賃金制度における本給とし、右控除によって得られた財源は、新賃金制度における加給に移行させる。②基本給の定期昇給において五〇歳以上の者と五〇歳未満の者を区別していたのを廃止し、定年まで一貫した昇給制度とする。③年齢給及び年齢加給については、生計費傾向との対応関係を強くし、若年・中堅層の将来的な人材確保と定着の観点から年齢別の水準見直しを行い、加給として一本化して、二〇歳代、三〇歳代の賃金水準を引き上げ、五〇歳から五四歳については、定期昇給、本給、加給の合計で伸び、五五歳以上は一旦賃金額を下げるものの再び上昇するような額の設定とする。④右③のように加給を設定したが、五〇歳代後半の賃金水準の変動幅が大きいことから、経過措置を講ずる。⑤これらにより、基本給は、満五四歳以下の社員については増加し、満五五歳以上の社員については減少することになる。⑥仕事給については、従来の職能給Bを業績・能力がより発揮できるものに改訂した上で、事務技術系及び監督技能系の仕事給を新職能給に一本化する。⑦その際に、旧監督技能系社員の移行に関し必要な措置を行う。⑧職能給のうちの職能点比分に影響する職能点の付与の方法を各人の業績評価の結果である職能昇格時に、より多くの職能点が付与されるようにするなど、業績・能力が賃金により多く反映されるようにする。⑨職能段階別定額の算定に影響する職能係数についても、業績により係数が増加する一方、五五歳以上の社員については、減少するようにする。⑩これらの改訂に伴い、被告の賃金カーブも改訂され、二〇歳代から三〇歳代において賃金が増額され、五五歳を屈折ポイントとして減額された上で再び上昇するという形になる。五五歳を屈折ポイントとしたのは、生計費の観点の他、役職勇退年齢が原則として五五歳であることによるのであり、役職再任された者は職能係数の減調整が凍結される。このようなカーブを策定するに当たっては、同業他社の傾向をも参考にしている。

(四) 原告らは、五二歳以上の社員について基本給部分が減額されると主張するが、右主張は、定期昇給において五〇歳以上の者の定期昇給額が五〇歳未満の者より低額となっていた制度を撤廃したことを看過するものであり、正確ではない。また、原告らは、本件改訂により職能給が減額となる者がいると主張するが、右主張は正確でないうえ、本件改訂により職能給が減額となる者については、実績調整により減額とならないような移行措置が採られている。さらに、原告らは、職能給の定期加算が減少するとも主張するが、右主張は、被告が業績・能力主義を強化し、業績・能力が発揮された者については、加算額を従来以上に多額にすることとしたことを看過したもので正確ではない。

2 本件改訂に至る経過について

(一) 組合の意思決定機関としては、規約上、大会、中央委員会、地区代議員会があり、大会は、組合の最高議決機関とされ、中央委員会は、大会に次ぐ議決機関であり、大会休会中におけるすべての事項について議決を行うこととされている。中央委員会を構成する中央委員は、地区単位で、地区代議員会構成員の中から推薦され、当該地区組合員の直接無記名投票により選出されることとなっている。また、地区代議員会を構成する地区代議員は、職場班単位で選出される。

(二) 被告は、八月八日、従業員管理諸制度の改訂を検討中であり、一〇月には組合に提案したい旨の説明を行った。そして、被告は、一〇月一五日、中央労使協議会を開催し、組合に対し、賃金制度の改訂を含む「従業員管理諸制度の改訂について」の申入れを行った。組合は、これに対して基本的な方針を示した組合見解を発表するとともに、当面の対応として、地区毎の代議員会を開催し被告申入れ内容の報告をするとともに、組合員に対しては、重工労組ニュースをもって報告すること、被告申入れ内容を正確に把握し問題点を解明するために専門委員会において質問交渉を行うことなどを決定し、実行された。被告は、組合と専門交渉を行った後、同月二三日に、中央労使協議会を開催した。その際、組合は、個々においてはかなり問題意識を持たざるを得ない事項もあるとした見解を表明し、中央執行委員会において対処方法を検討し、職場討議に付して中央委員会で集約後、被告に組合対処方針の申入れをする旨を予告した。

組合は、組合対処方針案を同月二三日の中央執行委員会及び同月二七日の常任中央執行委員会においてまとめ、各地区においては、一一月四日に開催される代議員会で対処方針案の提案を行い、それ以降に職場討議を行い、同月一八日の中央委員会で組合対処方針をまとめる旨を広報した。組合は、九項目の対処方針事項からなる対処方針案を策定した。対処方針案について、原告らの所属する鶴見地区においては、職場討議をふまえて、代議員会が開催され、鶴見地区としては賛成の立場で臨むことが決定された。組合は、同月一八日に中央委員会を開催し、活発な質疑の後組合対処方針案を全会一致で可決した。

組合は、対処方針に沿って、被告に対し、賃金についての九項目の要求を含む修正要求を申し入れ、「今後の交渉において、本制度が円滑に移行できるよう、組合の対処方針の実現に向けて不退転の決議で臨んでいく。この制度改訂を受け入れる前提には、高年齢層の減調整への経過措置を最重点項目に対処方針としたもので、あらゆる方策を講じてその実現を図ってもらいたい。」との見解を発表した(原告らがこの場での組合の発言として主張するものは正確ではない。)。これに対し、被告は、財源一定の考え方を前提としており、応え難い要求もある旨回答をした。

その後、中央労使協議会や二役折衝を経て、被告は、一一月三〇日の中央労使協議会において、職能係数の減調整についての経過措置を新設すること、成果還元給財源を充当して基本給特別措置を行うこと、役職者についての補償を行うこと等を内容とする回答(以下「会社回答」という。)をし、それに対して組合は、その内容をもって妥結していく考えであるが、職場に諮り最終集約したいと考えている旨の意見を表明した。これについて、鶴見地区では、職場討議を経たうえ、一二月一八日、代議員会を開催し、採決を行った結果、全会一致で確認され、鶴見地区としては、賛成の立場で臨むことになった。組合は、同月一九日、中央委員会を開催し、会社回答をもって妥結するとの中央執行委員会の判断・態度を審議し、全会一致で確認した。それを受けて、被告と組合は、本件協定を締結した。

(三) 右の点に鑑みれば、本件協定に至る組合の組合員からの意見集約手続には瑕疵があるとはいえない。原告らは、中央委員会で意見集約を行ったことが組合民主主義に反するとの主張をするが、労働組合がいかなる方法で組合の意思を決定するかはその労働組合の機関の裁量的判断に任されているのであり、この点には、手続的な瑕疵はないというべきである。組合執行部は対処方針及び妥結を中央委員会で集約すること自体も地区代議員会に対し提案しているのであり、一方的に中央委員会での集約を決定したものではない。また、原告らは、職場における意見集約手続も民主的な方法で行われたものではないと主張するが、全職場において組合の役員が出席した職場討議が行われていること、代議員に一任することも組合員の自主的判断に任されているというべきであること、対処方針案決定の際も妥結の決定の際も、職場討議において組合員から様々な意見が出され、その意見をふまえ地区代議員会や中央委員会で討議がなされていることからすると、原告らの主張は失当である。

(四) 原告らは、組合が公正な情報を提供しなかったと主張する。しかし、組合は、重工労組ニュースなどにより、正確な情報を組合員に提供し、賃金制度の改訂や経過措置についての詳細な情報を伝え、一二月二二日付けの重工労組ニュースでは、賃金についての計算式を示し、各人の賃金がどうなるのかを計算できるようにしている。

3 本件協定の効力について

(一) 原告らは、本件協定が原告らの賃金を不利益に変更するものであるから、労働条件の維持改善という労働組合の目的に反し無効であると主張する。しかし、そのような考え方は論理の飛躍である。すなわち、労働組合が労働関係における利益の総合的な調整をするにあたり、最終的には多数決によって意思の統一を図らざるを得ない以上、利害が十分考慮されなかったり、不利益を被ったりする組合員が生じることは避けられず、そのような場合でも全体としては組合員の経済的地位の向上に資するとして、組合員がその多数決で使用者と協定すべき内容を決めた以上、これに法的効力を認めるべきであり、そうしなければ、団体自治は成り立たない。労働組合法が労働協約に規範的効力を認めるのも、この原理に合致する。労働協約により賃金を決定する際にも、その内容をどのようにするかは原則として私的自治に委ねられている領域であり、労働協約により賃金が労働者の不利益に変更された場合でも、その効力は全組合員に及ぶと解すべきである。

本件協定は、合理的な意図に基づき、組合との十分な協議を尽くし、民主的な方法による組合員の意見集約を経て締結されたものであり、不利益を被る組合員に対しても規範的効力を有すると解すべきである。原告らは、労働協約の規範的効力の有無を検討する際にも、協約内容の合理性が問題になると主張するが、合理性の判断は、団体自治に許容された範囲を逸脱しているかどうかという判断に限って行われるべきである。

なお、原告らは、本件協定のうち、賃金制度に関する部分のみの無効を主張するが、本件協定は、賃金制度のほか社員制度等に関する部分も一体となっているものであり、賃金に関する部分のみが無効であるということはできない。

(二) 原告らは、本件協定は、年齢による差別であると主張する。しかし、身体的条件(特に肉体労働を中心とする職場が多い被告においては顕著である。)や専門的な知識技術の習得への適応性については、年齢との関係があることは否めないばかりか、生計費についても年齢による変化を認めざるを得ないから、年齢が増えたという理由のみによって賃金が増加する年功制賃金は、合理性を欠くのみならず弊害をもたらすものである。すると、労働者間の利益の配分を公正かつ合理的なものに是正するために高年齢労働者の賃金を見直したことは、強行法規や公序良俗に反するものとはいえない。

五  争点3に関する当事者の主張

(被告)

原告らが本件給付請求の請求額の根拠とする別表一の「原告主張、新制度基準内月額」の数値は、現実に新賃金制度に基づき原告らが受給した賃金額ではなく、計算上の数値に過ぎず、いずれも現実の受給額より低額となっている。よって、これを基にした原告の本件給付請求における原告らの請求額は、観念的な数値であり、被告に対し請求し得る現実の額であるとはいえない。

また、原告らは、定年までの年間増減額の累計額を請求するが、これらは将来の給付請求の部分を含み、その部分についてはあらかじめ請求をする必要性は認められず、訴えの利益がない。

(原告ら)

別表一の「原告主張」欄の数値には、計算上の観念的な数値が含まれるが、新賃金制度は既に実施されているから、旧賃金制度の下で現実に受けられたはずの賃金を算出することは不可能である。しかし、現実に受けられたはずの賃金額が分からなくても、原告らが請求する差額算出のためには他の方法を用いればよく、原告らが新賃金体系と旧賃金体系との比較により直接算出したのが右表に掲げた額である。

なお、現時点においては、原告らは定年まで雇用されると考えるのが合理的であり、仮に定年以前に退職する者がいた場合には個別に執行の段階で対処すれば足りるから、将来分の請求についても訴えの利益はある。

第四  争点に対する判断

一  前記争いのない事実等に後掲各証拠を総合すると次の事実が認められる。

1  被告は、昭和五五年一〇月、組合に対し、定年延長と従業員管理諸制度の改訂を申し入れ、妥結に至り、昭和五六年四月から実施した。これは、従来五五歳であった定年を二年毎に一歳ずつの割合で段階的に延長し、平成元年四月に六〇歳とすること、五〇歳以上の者の定期昇給額については五〇歳未満の者よりも減額することが主な内容となっていた。しかし、被告では、不況等を理由に五五歳時での退職を勧奨する特別勇退援助制度等が導入されるとともに、昭和六二年四月に定年が五九歳まで延長された後、定年の六〇歳までの延長は凍結され、平成三年四月に特別勇退援助制度等が廃止され右凍結が解除されるまで、事実上六〇歳の定年は実施されなかった。この改訂による賃金制度(旧賃金制度)は、基本的には、本件改訂まで維持された。(甲一一二の1、一二三、一三四、一三五、原告太田)

2  旧賃金制度は、被告の社員のうち一般職掌に属する社員を、社員の職種により事務員、技術員、技能員に分け、前二者を事務技術系社員と呼称し後者を監督技能系社員と呼称する職種区分及び、社員の保有する職務遂行能力により主管、主事、主務、担当に分け、前二者を事務技術系にあっては主要職社員、監督技能系にあっては監督職社員、後二者を一般職社員とそれぞれ称する社員区分に基礎を置く社員制度を前提として定められていた。旧賃金制度においては、従業員の基準内賃金は、基本給、職能給AないしC、監督技能系社員のみに支給される作業給からなっており、原告大山、原告城谷、原告金原、原告松原は、事務技術系社員であって職能給Bの給付対象者、それ以外の原告は、監督技能系社員であって職能給Aの給付対象者であった。

(一) 基本給は、本給、年齢給、年齢加給により構成される。前者の額は初任時の初任本給に毎年行われる定期昇給額を積み重ねた額(後述するようにベースアップによる増額もある。)に等しく、後二者の額は、労働協約が定める表により定まる。年齢給及び年齢加給の額は、平成四年当時、別表二のとおりであり、年齢給の額は、一五歳から年齢一歳ごとに同一額ずつ上昇し、五〇歳に至って横ばいとなり、五五歳から年齢一歳ごとに同一額ずつ減少し、また、年齢加給の額は、年齢三五歳ないし三九歳の社員及び五〇歳ないし五四歳の社員について一定額、四〇歳ないし四九歳の社員について右の額の二倍の額とすると定められていた。定期昇給額は、毎年被告と組合との交渉によって決定されるが、五〇歳未満の社員と五〇歳以上の社員では、適用される基準が異なり、前者については、昇給額の一部分につき成績査定が影響し、後者については、昇給額の全体について成績査定が影響することとなる(成績は標準額の1.35倍から0.65倍の範囲で定める)。五〇歳以上の者の定期昇給額は、概ね五〇歳未満の者の定期昇給額の三割とされていた。

(二) 職能給Aは、基本額および成績額から構成され、基本額は、職能区分毎に一定の幅の額が定められ、各人の保有する職能点により、具体的な額が定まる。職能点は、毎年、各人の能力伸長度や同一職能区分内での資格昇格に伴い付与されるものの積み重ねであるが、職能区分が変更になった場合には、所定の調整を行う。職能点の幅は一点から職能区分別に九〇点又は九五点と定められている。職能点七〇点又は七五点までは一点ごとに一定額が加算されるが、右の点数を超えると、一点当たりの加算額は右の額の半分の額になり、職能点が上限の九〇点又は九五点に達すると、職能区分が同一である限りそれ以上の加算はなくなる。成績額は、職能区分ごとに定まる職能段階別定額に各人の能力発揮度係数を乗じた額とされる。能力発揮度係数は、毎年査定により平均を一とし、原則として1.5から0.5までの範囲で定まる。

(三) 職能給Bは、職能段階別定額と職能点比分から構成される。職能段階別定額は、職能区分や資格により定められた職能段階別基準額に、各人の能力発揮度合に応じて定められる職能係数(原則として1.15から0.85の範囲で定まる)を乗じて決定される。職能点比分は、各人の職能点(前記(二)のとおり、職能区分別に上限と下限が定められている)に職能単価(職能給Bが適用される社員全員について同額である)を乗じて決定される。職能点は、職能区分の変更や資格の昇格に伴い一定の点数が付与され、昇格等がない年には、各人の能力伸長度合に応じて点数が付与される。

(四) 作業給は、作業等級ごとに定額が支給される。さらに、作業長、工長、技員、副技員については、役職加算が行われる。

また、賃金の見直し(ベースアップ)が毎年四月ころ、組合と被告との交渉により行われ、これにより、各基準額が改められる他、各社員の基本給についての増額措置が定期昇給とは別に行われる。(以上、甲一ないし三、乙一一、一三ないし一七、大野証人、原告太田)

3  平成三年ころの被告の財務状況、一般的な労働者の平均的な収入、被告の同業他社における賃金体系の状況は以下のようであった。

(一) 被告は平成三年三月末決算において五〇三億七一〇〇万円、平成四年三月末決算において三七五億二四〇〇万円、平成五年三月末決算において四一億一八〇〇万円の経常損益上の黒字をそれぞれ計上したが、その黒字額は年々減少する傾向にあった。(甲二一九、二二〇)

(二) 被告は、平成三年ころ、若手労働人口の減少等により新規採用活動において苦戦する状況にあり、若年層の待遇を改善する必要があった(この点につき、甲一七七には、このころの被告においては、若年者の採用は少なく、初任給も他社と比べ低くはなかったとの内容があるが、仮にこの内容が真実であるとしても、若年層の採用活動の苦戦の結果、採用数が減少し、初任給などの待遇の改善を迫られた可能性も十分考えられるからこれらは右認定に影響を与えるものではない。)。(乙一一、北川証人)

(三) 組合が調査したところによると、組合の組合員の平成四年度における基準内賃金の平均は、全組合員の平均が二八万八〇八三円であるのに比し、四五歳ないし四九歳の層で三二万四〇〇〇円、五〇歳ないし五四歳の層で三三万七〇〇〇円、五五歳ないし五九歳の層で三二万六〇〇〇円であった。(甲一一三、原告太田)

(四) 労務行政研究所から賃金決定のための物価と生計費資料として公刊されている資料によると、同研究所が人事院の発表する平成三年四月時点の世帯人員別標準生計費を年齢別に推計したところ、その額は、四七歳時が最高(全国平均子供三人の世帯では三〇万九七〇〇円、子供二人の世帯では二七万三四〇〇円)となり、四八歳以降は、徐々に減少するが、その減少幅は年齢が高くなるにつれ増大する。五五歳時については、全国の平均額は、子供三人の世帯で二八万三五〇〇円、子供二人の世帯で二五万〇三〇〇円、東京における平均額は、それぞれ二九万七四〇〇円、二六万四〇〇〇円であり、五九歳時については全国平均の額は子供三人の世帯で二四万三〇〇〇円、子供二人の世帯で二一万四五〇〇円、東京における平均額はそれぞれ二五万四九〇〇円、二二万六二〇〇円である。また、総務庁統計局の全国消費実態調査を基に試算すると、平成三年における子供が大学に進学する世帯における年齢別の実態生計費は、子供が二人の家族では五〇歳(四六万四一〇〇円)が、子供が三人の家族では五一歳(四九万七五〇〇円)がそれぞれ最高金額となり、五五歳では、子供三人の世帯で三七万七六〇〇円、子供二人の世帯で三六万五二〇〇円、五九歳では、子供三人の世帯も子供二人の世帯もいずれも三〇万〇六〇〇円である。(乙一一、一八)

(五) 他方、平成元年ないし平成四年版の総務庁統計局編集による家計調査年報によれば、勤労者世帯における世帯主の年齢階級別の一世帯一か月当たりの支出金額は、五〇歳ないし五四歳の層が最も高く四五歳ないし四九歳の層がそれに次ぎ、右年報の平成三年度版によれば、一か月当たりの消費支出金額は五〇歳ないし五四歳の層で三九万五七三八円、四五歳ないし四九歳の層で三九万八八八三円、五五歳ないし五九歳の層で三七万八九八〇円であった。(甲一五の1ないし4)

(六) 一般的に、造船産業の賃金水準は金属産業の各組合が所属する企業の中では比較的低位にあった。(大野証人、北川証人)

(七) 平成三年に、被告が、同業他社である三井造船、川崎重工業、石川島播磨重工業への問合せによって得たところによると、被告の賃金傾向は、右三社と比較して若年・中堅層においては優位とはいえないが、高年齢層においては優位(四六歳ないし五一歳の年齢において右三社と比較して年収が数万円ないし約二〇万円高い額となっている)にあった。(乙一九の1、2)

(八) 造船重機労連が平成四年に発行した調査季報によれば、高卒の技能職標準労働者の賃金(一部中卒者を含む)を造船重機大手八社(三菱重工業、川崎重工業、石川島播磨重工業、住友重機械工業、三井造船、日立造船、被告、キャタピラ三菱)で比較すると、被告における賃金は四五歳においては六番目、五〇歳においては右の八社から石川島播磨重工業を除いた七社中五番目である。もっとも右の資料においては、三菱重工業、石川島播磨重工業、キャタピラ三菱、日立造船の欄には「実態値」、川崎重工業の欄には「モデル」との注記がそれぞれ付されている。(甲一六九)

(九) 労務行政研究所から企業内高齢層の処遇実態につき平成三年編集版として公刊されている資料によると、高年層の賃金体系について特定の年齢時点でいったん賃金額が減額され、その後、再び上昇していくタイプが22.7パーセント、特定の年齢時点で減額の後、横ばいとなるタイプが8.3パーセントあった。逆に、特定の年齢時点に到達しても横ばいとなるか、上昇(鈍化を含む)するタイプが合計で52.9パーセントあった。(乙六)

(一〇) また、同資料によれば、高年層の賃金の処遇について同業他社である三菱重工業では55.5歳で定期昇給が打ち切られた上で五七歳以降は賃金が減額され、石川島播磨重工業では五六歳以降賃金が漸減し、川崎重工業では五六歳以降定期昇給が打ち切られて五八歳時点で賃金が減額され、住友重機械工業では五六歳以降基準により算出された賃金額の一定割合を控除して支給されることとなっていた。(乙二一)

(一一) もっとも、右(一〇)のような措置は、各社において昭和六一年ころに六〇歳への定年延長措置が採られるのと同時に行われたものである。(甲一七)

4  平成三年一月から、被告は、本件改訂に向けての検討を開始した。検討にあたり、若手従業員の定着のための処遇等の改善、職務に応じた従業員育成・処遇のあり方等が主な検討項目とされ、処遇改善を行う場合にも労務費は増加させないこと、年功的な要素も否定しないものの今まで以上に能力主義を強化することが検討の目標とされた。

特に賃金制度については、右3(四)、(七)、(九)、(一〇)に摘示した事情や、職種区分を廃止する以上賃金項目を分けることは適当ではなく、その一本化は可能であること等が検討された。

被告は、組合に対し、従業員管理諸制度の見直しを行いたいことをあらかじめ予告していたが、一〇月一五日「従業員管理諸制度の改訂について」という文書をもって本件改訂を申し入れた。(以上、甲二、六、八四、八八、一六三、乙三、一一、一二、二三の1、大野証人)

5  被告が組合に対して申し入れた改訂内容のうち、社員制度及び役職制度の改訂の主な内容は以下のとおりである。まず、従来の職種区分を廃止し、社員区分のうち、主要職社員と監督職社員を統合して基幹職社員とし、一般職社員を執務職社員とする。また、従来主管、主事とされていた職能区分をそれぞれ、主任、副主任と改称する。上位の職能区分への昇格の機会を拡大する。具体的には、主務への昇格が、若年から高年齢層に至るまでより多くの社員についてなされるようにする。副主任への昇格については、従来の主事への昇格と比較すると四〇歳を超えた年齢からの昇格数が増えるようにする。主任への昇格は、従来の主管への昇格と比較すると、四五歳以上の年齢において昇格数が増えるようにする。いずれの資格についても昇格の時期の終期は従来五〇歳までであったのを、五四歳まで延長する。これにより、半数の社員が主務に昇格する年齢は従来三〇歳ころであったが、二七歳ころとなるような制度とする。次に、役職制度については、実際の職務を伴わない待遇的な面を持っていた従来の作業長、工長制度を廃止し、新たに、職務に応じた役職として作業グループごとにチーフリーダー、作業チームごとにリーダーという役職を新設する。満五五歳到達後の九月末又は三月末に行われていた役職勇退制度は存続させるが、勇退者の再任の機会を増すことにする。(甲二、八八、一六三、乙一一、一二、大野証人)

6  被告が組合に対して申し入れた改訂内容のうち賃金制度に関する部分の主な内容は以下のとおりである。

(一) 基準内賃金の項目は、本給と加給(従来の年齢給と年齢加給を統合したもの)からなる基本給、職能給、環境手当とする。職能給A、B及び作業給は職能給に統合するが、職務に応じて支給する環境手当を新設し、作業給のうち役職加算分の一部については慰労金として支給する。

基本給額は、従来五〇歳以上と五〇歳未満で本給の定期昇給額が異なっていたのを一本化し、定期昇給額は、職能区分別の基準昇給額に成績(1.3から0.7の間とする。)を乗じたものとする。また、五〇歳未満の本給の定期昇給額から一〇〇〇円を加給財源に移行する。

加給については、別表三のような加給テーブルにより年齢に応じた額が支給されるが、このテーブルは、一八歳から四九歳まで少なくとも毎年一〇〇〇円上昇し、そのうち四ないし五年に一度三〇〇〇ないし六〇〇〇円上昇をする年齢があるが、五〇歳から五四歳までの間は毎年一〇〇〇円ずつ減少し、五五歳時に二万六五〇〇円減少した後、五六歳以降は一〇〇〇円ずつさらに減少していくように設定されている。

職能給については、従来の職能給Bにおいて職能段階別定額と職能点比分にあてる財源が五〇対五〇になるように財源が管理されていたのを、五五対四五になるように改訂したうえ、職能段階別定額については、職能区分及び資格により定まる職能段階別基準額に職能係数を乗じた額とし、職能点比分については、職能点に定額の単価を乗じた額とする。職能係数は原則として1.15から0.85の範囲で各人の能力発揮度合により決定されるが、五五歳到達直後の四月又は一〇月において基幹職社員につき0.08、執務職社員につき0.03の減調整を行う(ただし役職再任された者についてはこの減調整を凍結する運用がなされる。)。減調整によって生じた財源は五四歳以下の社員に対する職能係数の平均を一以上で管理することにより五四歳以下の社員に還元される(この措置は本件協定中あるいは組合への申入れには記載されていないが事前に被告から組合に対してこのような措置をとる旨の話はあった。)。職能点は、資格によって定まる一定の範囲内で付与されているが、職能区分変更や資格昇格の際に加算(上位の職能区分に昇格するときほど高い点数が加算されるようになっている。)され、それが無い年には、能力伸長度合により職能区分による一定の範囲内での加算(職能区分変更や資格昇格の際よりも低い点数であることが多い。)がなされる。

環境手当は、作業環境の厳しい作業に従事する者について二段階の手当を設け、当該作業に従事した日数に応じて支給される。

(二) 現在被告に在籍している従業員の新賃金体系への移行については、平成五年三月末日で行うこととし、具体的な移行方法については、以下のように定める。

本給については、本件改訂に当たり、被告は、従来五〇歳未満の従業員の本給の定期昇給のために用意されていた財源のうち一年当たり一〇〇〇円分を加給のための財源に移行させた。そのため、新制度においては、五〇歳未満の社員の定期昇給額は、他の条件が全く同じでも旧制度に比べ一〇〇〇円低い額となるが、加給テーブルは右低下分を含んで作成されている。したがって、新制度における加給テーブルを適用するためには、入社から現在に至るまでの定期昇給が行われた際に各人の本給に含まれたことになる右一〇〇〇円分を控除する必要が生じ、そのために新本給は各人の本給から、五〇歳未満(四月一日現在、以下移行に関する年齢は特に断りのない限りこの日現在のものをいう。)の従業員については、一八歳から自己の年齢までの年数に一〇〇〇を乗じた金額、五〇歳以上の従業員は一律三万一〇〇〇円をそれぞれ控除した額とする。

職能給A及び作業給については、従来の職能給Aのうちの成績額における能力発揮度係数が1.5から0.5の幅で定められていたことから、これを1.15から0.85の幅で定められる新職能給における職能係数に読み替えた上で、新制度における職能段階別基準額によって職能段階別定額を定め、従来支給されていた職能給と作業給(三万六四〇〇円を限度とする。)の和から、右の職能段階別定額を控除した額を職能点比分とする。職能点比分については、後述するような方法で職能点単価が既に決定されているため、職能点を調整することになるが、その際に、職能点が資格ごとに定められた上限を超える場合には、実績調整給を支給することにより、職能給が減額とならないようにする。また、職能給Bについては、従来の各人の職能係数及び職能点と新たに定められた職能段階別基準額と職能点単価により決定される。この場合も、右の計算により、減額となる場合は、実績調整給を支給して職能給が減額とならないようにする。

(三) なお、この改訂による賃金変動を緩和するため、加給について、経過措置を講じ、平成五年及び平成六年までは経過的な加給テーブルを用いる(被告は、乙一一、一二等において平成七年度の加給テーブルも経過的なものであると説明しているが、平成七年度分の加給テーブルは改訂後の加給テーブルと全く同一額である。)。

この場合、五〇歳ないし五四歳の従業員については、旧制度における基本給から右の三万一〇〇〇円を減じた金額よりも新本給、加給の和の額の方が減額される場合があるが、平成五年四月以降の定期昇給を考慮すると、五〇歳以上の者の定期昇給の抑制が撤廃されたことから旧賃金制度により定期昇給が行われたと想定した額よりも新賃金制度による賃金額が増額されるように額が決定されている。(以上、甲二、一六三、乙一一、一二、大野証人、北川証人)

7  右の申入れ内容を決定するに当たって、被告においては、以下のような調整や計算を行った。

まず、職能点比分の単価を求める際には以下のような計算を行った。従来の職能給Bにおいて、職能段階別定額の総和額と職能点比分の総和額との比率は五〇対五〇であるのが建前とされていた。そこで、職能段階別定額と職能点比分の比率を五〇対五〇から五五対四五に変更するに当たっては、職能段階別基準額を全て1.1倍することにより、職能段階別定額の総額を従来の1.1倍にし、職能給Bの総額から職能段階別定額の総額を1.1倍にしたものを控除した額を職能点比分の総額と位置づけ、右総額を職能給B対象者の有する職能点の総和の点数で除した金額である123.747円を職能点の単価とした。この場合、職能段階別定額を単純に1.1倍し、職能点の単価を0.9倍とするという方法を採らなかったのは、実際には、従来の職能給Bにおける職能段階別定額の総和の額と職能点比分の総和の額の比が五〇対五〇ではない可能性があり、その場合に右のような方法を採ったのでは、職能給の総額が変化してしまうおそれがあるからである。

また、職能段階別基準額の設定に当たっては、右のように職能段階別定額を1.1倍し、職能点評価を123.747点としただけでは、従来の主務等においては事務技術系社員に比べ監督技能系社員の賃金水準が他の職能区分における場合よりも高かったため、そのまま前述の移行措置をとった場合職能点比分が過大になるなど移行が難しい場合があり得、実際に実在者について検討した場合も主務及び担当二級以上においては移行が難しいと考えられたことから、右の職能段階については職能段階別基準額を上方修正し、事務技術系社員の賃金水準を監督技能系社員に合わせ、移行を容易にした。職能点についても、上限値を上昇させ、職能点が頭打ちとなることにより職能給の昇格が遅れることを防ぐようにした(なお、原告らは、この移行措置により職能給が減額される場合があると主張するが、前述したように、職能給が減額される場合には実績調整給が支給されて減額分を補填するのであり、原告らの右の主張は失当である。)。(以上、甲二、一六三、乙一一、一二、大野証人、原告太田)

8  組合の規約には、以下のような定めがある。

(一) この組合に次の機関をおく。(一六条一項)

(1) 大会

(2) 中央委員会

(3) 地区代議員会

(4) 中央執行委員会

(5) 常任中央執行委員会

(二) 大会・中央委員会または地区代議員会の議案は、中央執行委員会が提案する。(一七条一項)

(三) 大会はこの組合の最高議決機関であって、大会代議員・中央委員および役員をもって構成する。(一八条一項)

(四) 大会は、定期大会・年次大会および臨時大会とする。(一八条二項)

(五) 臨時大会は、大会・中央委員会の議決および中央執行委員会の決定もしくは組合員の三分の一以上の請求により、中央執行委員長が招集し開催する。(一九条二項)

(六) (大会の)議決の方法は挙手・起立・拍手または直接無記名投票、その他議長の発議による。(二二条)

(七) 次に定める事項は必ず大会に付議しなければならない。

(1)綱領および規約の改廃 (2)運動方針の決定 (3)年間の予算および決算 (4)罷業権確立の発議 (5)他団体への加盟または脱退 (6)除名 (7)組合役員の選出および解任 (8)上部団体大会代議員および中央委員の選出 (9)組合の解散 (10)その他重要事項で中央委員会が大会へ付議することを認めた事項(二五条)

(八) 大会にかわる決定をするため、中央委員会の議を経て組合員による直接無記名投票をおこなうことができる。(二七条一項)

(九) 中央委員会は大会に次ぐ議決機関であり、大会休会中におけるすべての事項について議決をおこない、大会に対して責任を負う。(二八条一項本文)

(一〇) (中央委員会の)議決の方法は大会に準じる。(三二条)

(一一) 中央委員の選出は、地区単位とし九月一日現在の各地区組合員数にもとづき組合員数四〇〇名までは四名とし、四〇〇名以上については一五〇名に一名の割合で選出する。

一五〇名を下回る数については七六名以上を切り上げ、七五名以下を切り捨てる。(三五条一項)

(一二) 中央委員は地区において地区代議員会構成員中より当該地区組合員の直接無記名投票で選出し、大会開催または中央委員会開催三日前までに、組合に報告しなければならない。(三五条二項)

(一三) 地区代議員会は地区における意思決定機関であり、地区代議員および地区駐在中央執行委員をもって構成する。(三六条)

(一四) 地区代議員の選出は職場班単位とし、原則として改選年度の九月一日の組合員数五〇名に一名の割合で選出する。(三八条一項)

(一五) (地区代議員会の)議決の方法は挙手・起立・拍手または直接無記名投票、その他議長の発議による。(四一条)

(一六) 職場集会は、組合の意向伝達と職場の意向を把握し、組合員と組合の意思疎通をはかることを目的とする。(六二条一項)

(一七) 職場集会は、中央執行委員会の指示にもとづき職場班の組合員を招集して開催する。(六二条二項)(以上、甲八七、乙四)

9  被告は、組合に対し、一〇月一五日に開催された第一回中央労使協議会において本件改訂の申入れをした。これを受けて、組合は直ちに中央執行委員会を開催し、申入れ内容を組合員へ周知徹底し、各地区代議員会に当面の対応を報告することを決定し、翌一六日付の重工労組ニュースで、組合員に対し、申入れ内容の概略と今後の組合の対応について周知した。右の重工労組ニュースには、組合の当面の対応について、「1.各地区は、直ちに代議員会を開催し会社申し入れ内容の報告をするとともに、職場組合員には重工労組ニュースをもって報告する。2.会社申し入れ内容をより正確に把握することと問題点を解明するために、専門委員会において質問交渉を行う。3.一三日に製鉄労連にも概ね重工労組と同様の内容が申し入れされたことから、製鉄労連との連携を密に対応を図る。4.組合の対処方針については、上記措置を踏まえた後、中央執行委員会で慎重に検討を行い策定する。その内容は職場討議を経て中央委員会で集約し、会社と交渉を行なう。」との記載がなされている。その後、組合は、同月一六日、二〇日、二三日の三回にわたり被告との間で専門委員会を開催し、細部事項についての質疑を行った。また、組合は、同日開催された第二回中央労使協議会において、「会社提案趣旨については理解できるものの、個々においてはかなり問題意識を持たざるを得ない事項もある。組合としても、対処方針を作成するにあたって、こうした意見については無視できないと考えている。会社としても十分に認識され、今後の対応を図られたい。」との見解を発表し、また、組合対処方針を申し入れることを予告した。さらに、組合は、同日の中央執行委員会及び同月二七日の常任中央執行委員会において組合対処方針案の取りまとめを行った。組合が作成した組合対処方針案は、賃金の部分については、五五歳以上の者についての職能給の減調整実施時期を満五五歳到達直後の四月のみとすること、高年層への納得性のある経過措置を講ずること、職能係数の五五歳時における一律減調整については見直すこと等を内容としていた。鶴見地区においては、一一月四日に地区代議員会が開催され、組合対処方針案及び「組合対処方針を職場討議に付し、一一月一五日の第四回代議員会で職場討議結果の集約を行う」ことの提案がなされ、これらの提案は、全会一致で確認された。(甲六、七、七〇(一部)、七二ないし七六、八四、九〇、一八九(一部)、乙三、一一、二〇の1、二三の1、大野証人、原告梅木(一部))

10  その後、鶴見地区の各職場においては、組合対処方針案についての職場討議が行われた。鶴見地区においては、職場班が二七あるが、職場討議における採決が行われたのは、以下に挙げる五つの職場班のみであり、その他の職場班では、代議員一任とされた。

(一) 重機鋼管工場(組合員数一〇四名)においては、一一月一二日に行われた職場集会で、組合対処方針案に対する採決が挙手により行われたが、賛成二〇名、反対二二名、その他は保留・棄権で、組合対処方針案が否決された。

(二) 海洋鋼構造工場(組合員数九五名)においては、一一月中旬ころに行われた職場討議で、原告菊地が挙手による採決を求めたにもかかわらず拍手による採決が行われた。原告菊地には、反対の拍手の方が多いように聞こえたにもかかわらず、代議員は、賛成の立場で臨む旨を発言した。会場は騒然となり、代議員は、二名の職場代議員が拍手の状況を反映する旨訂正した。しかし、当該職場の代議員は、第四回代議員会では、賛成一名、保留一名という態度を表明した。

(三) 艦船工場(組合員数一一三名)においては、一一月一三日に行われた職場集会で、賛成三四名、反対四名、保留・棄権不明で可決した。

(四) 浅野ドック機電工場(組合員数七二名)においては、一一月九日ころ職場討議が行われ、挙手採決の結果は賛成一一名、反対五名、保留一〇名であったが、代議員は、職場採決に参加していない応援者などに賛否を尋ねた結果を加え、賛成が二七名、反対一二名、保留一一名であるとして可決した。

(五) 浅野ドック船渠工場(組合員数五四名)においては、一一月九日ころ職場討議が行われ、代議員一任を提案する代議員に対し、原告本橋らが抗議したところ、代議員は、出席者数の確認もしないまま挙手による採決に入り、当初賛成者は九名だったが、再度、賛成者の挙手を求めた結果、一三名が賛成し、八名が反対し、一四名が保留・棄権した。代議員は、休んでいる者と他の職場への応援者一〇人に電話で賛成の採決を採った結果、賛成者が多数である旨を述べて、職場集会を終了させた。(以上、甲一七ないし一九、二一、二二、七〇、一四一、一八九、一九五の1、二〇〇の1、二〇五ないし二〇七、二〇九、二一三、乙一、原告梅木)

なお、この職場討議の行われていた期間である同月一二日付けの重工労組ニュースは、賃金制度改訂の解説を特集し、月例賃金指数傾向カーブという年齢別の賃金額の指数を他社及び生計費と比較したグラフ、賃金制度改訂の大まかな仕組みの解説、監督技能系社員にあっては三〇歳から五五歳まで五歳刻みの、事務技術系社員にあっては二五歳の各社員の賃金が平成四年ないし平成七年においてそれぞれどのように推移するかの試算を掲載した。右のグラフの「他社」とは、組合が他の造船業五社(川崎重工業、石川島播磨重工業、住友重機械工業、三井造船、日立造船)の労働組合に問い合わせた賃金水準の平均値であるが、右のグラフにはその旨の具体的な解説はなく、生計費についても何を根拠としているかの解説はなかった。

同月一五日に鶴見地区代議員会が開催され、組合対処方針案について審議がされた。各代議員からは、職場の声として高年齢層が多く大変厳しく受け止めている、反対・保留・棄権が今までになく多い等の意見が出された。そして採択がされたが、賛成多数(賛成三六、反対二、保留一)で可決された。同月一八日に第八六回中央委員会が開催され、組合対処方針案が審議された。同委員会においても、鶴見地区では反対の声が多く出された旨の意見が出されたり、成果還元給を一部取り崩してでも高年層の基本給加給制度の経過措置を実施してほしい旨の意見が出されたものの、これについて、中央執行委員会で検討することとして、組合対処方針案そのものは、全会一致で可決された。中央執行委員会においては、基本給加給の経過措置に限り、平成九年度まで成果還元給の取崩しを行うことを被告に提案することを決定した。そして、組合は、同月一九日の第三回中央労使協議会において会杜に対し組合対処方針の申入れを行ったが、その際「対処方針がとりまとめられる過程で職場討議や各地区代議員会及び中央委員会等での職場意見、とりわけ高年齢層の声には切実なものが感じられた。今後の交渉において本制度が円滑に移行できるよう、組合の対処方針の実現に向けて、不退転の決意で臨んでいく」等の見解も表明した(なお、この点に関し原告らは、本件訴訟の被告準備書面における、組合が「それだけに今日までの交渉においては、本制度が円滑に移行できるよう不退転の決意で臨んできた」と発言したとの記載をもって、そのような発言があったと主張し、原告梅木、甲七〇、二〇八にはこれに沿う供述又は内容があるが、被告は、右記載内容を撤回しているうえ、この点には裏付けがなく採用できない。)。対処方針に対し、被告は、高年層の賃金措置に対する経過措置については、財源の問題があり、応じがたいとの見解を述べたため、組合は、最終的には成果還元給財源の取崩しもやむを得ない旨の回答をし、被告は、それも含めて検討する旨の回答をした。(以上、甲四、九、七〇(一部)、七七、七八、一八九、乙一一、二二、二三の2、二九、大野証人、北川証人、原告梅木(一部))

11  同月二六日の第四回中央労使協議会において、被告は、組合に対し、組合が申し入れた高年者層の基本給加給について五年間の経過措置を採ることは成果還元給財源の取崩しを行うとしても難しい旨の回答をした。これに対して、組合は、本制度改訂の最大の課題は高齢者層に対する経過措置であるとして、被告との間で、中央労使協議会終了後、二役交渉を行った。同月三〇日の第五回中央労使協議会において、被告は、組合に対し、組合対処方針に対する会社回答を示した。その主な内容は、五五歳の職能係数の調整時期は被告提案どおり年二回で了承してほしいこと、職能係数の減調整については、三年間の経過措置(基幹職については、平成五年度は0.03、平成六年度は0.05、平成七年度は0.08、執務職については、平成五年度は0.01、平成六年度は0.02、平成七年度は0.03)をとり、また著しく業績発揮度の高い者について職能係数の位置づけについて必要な見直しを行うこと、高年層の基本給については、当初の提案にあった基本給加給の移行テーブルに加え、成果還元給財源から取り崩すことによる基本給特別措置を行う(具体的には、平成五年四月一日現在の年齢が五一歳ないし五四歳の者に対しては、平成六年度は月一万円、平成七年度は月七五〇〇円、平成八年度は月五〇〇〇円、平成九年度は月二五〇〇円を五五歳に達した翌年度から支給し、平成五年四月一日現在の年齢が五五歳以上の者は、平成五年度は月二〇〇〇円、平成六年度は月一〇〇〇円を支給する。)こと、作業給の役職加算額が無くなる者については、一律の補償措置を行うこと等であった。(甲四、七〇、七九、八〇、一八九、乙一一、二三の2、二四、大野証人、原告梅木)

これを受けて、組合は、一一月三〇日ころ開催された中央執行委員会において、この会社回答について概ね組合の要求が認められたと判断し、これをもって妥結するための手続に入ること、具体的には各地区の代議員会に提案し、職場討議に付した上で一二月一九日開催予定の第八七回中央委員会において最終集約を行うことを提案することとした。鶴見地区においては、一二月八日に行われた第五回代議員会において、会社回答をもって妥結することの是非について同月一〇日から一八日までの間に職場討議を行うことが決められた。(甲四、七〇、八〇、八一、一八九、乙二〇の2、二三の2、三三、原告梅木)

鶴見地区の以下に掲げる七つの職場班において、職場討議の結果、採決が行われたが、その他の職場班においては、採決は行われず、代議員一任とされた。

(一) 浅野ドック船渠工場においては、一二月一五日に行われた職場集会で、代議員が代議員一任を提案したが、原告本橋らが無記名投票を主張したため、挙手採決を行うことになった。出席者数は二七名であり、代議員は、採決の結果賛成一四名、反対九名、保留・棄権七名とした。しかし、原告本橋らが数えたところでは、賛成として挙手した者は一一名にすぎなかった。

(二) 浅野ドック機電工場においては、一二月一五日に行われた職場集会で挙手による採決を行った結果、賛成者が一二名と発表され、その後に反対者の挙手を求めることを三回繰り返した。その際、原告吉井らが反対者の挙手数を数えると一九名であり、保留は七名であった。しかし、代議員は、応援者や構内出向者の聞取り調査結果を加えたとして、賛成二一名、反対一九名、保留七名と発表した。これに対して、原告吉井らが抗議した。

(三) 修繕事務所(組合員数四七名)においては、一二月一五日に一二名のみが参加して職場討議が行われ、採決の結果は賛成七名、反対三名、保留二名と発表され、代議員は、中央委員会には賛成の立場で臨む旨発言した。

(四) 一二月中旬ころ、構内出向者を集めての職場集会が行われた。採決においては、反対者が一名、保留者が一名で、賛成に挙手した者はいなかった。しかし、代議員は、職場の意向をくみとりますので、代議員一任でお願いしますという旨発言して職場集会を終わらせた。

(五) 海洋鋼構造工場においては、一二月一四日に、拍手による採決が行われたが、賛成の拍手を聞いただけで、反対の拍手を聞かないまま、採決を打ち切った。

(六) 艦船工場においては、一二月一四日ころに行われた職場集会で賛成約三六名、反対六名、保留七名で可決された。

(七) 重機鋼管工場においては、一二月一〇日に行われた職場討議で挙手による採決の結果賛成四〇名、反対一九名で可決された。(以上、甲一七ないし二三、七〇、一四一、一八九、一九六、二〇一、二〇二、二〇五ないし二〇七、二〇九、二一二、二一三、乙三三、原告梅木)

一二月一八日に開催された鶴見地区の第六回代議員会において、会社回答は、全会一致により確認された。また、同月一九日の第八七回中央委員会においても、会社回答は全会一致により確認された。一二月二二日付けの重工労組ニュースで、組合は、第八七回中央委員会において会社回答が全会一致で確認された旨を伝え、また、新賃金制度による従業員各人の平成五年四月一日時点での賃金額の計算方法を示した。なお、これ以前に、被告または組合が、従業員に対し新賃金制度による各人の賃金の計算方法をわかりやすく示したことはなかった。また、右重工労組ニュースの計算方法には移行時の本給を算定するために必要な各人の年齢の基準時が誤って記載されており、その結果平成四年四月一日現在四八歳までの者については、各人の新たな本給が誤って一〇〇〇円少なく計算される。もっとも、被告と組合との間の「従業員管理諸制度の改訂に係わる移行措置等に関する確認書」も同様に誤っている。(甲七〇、八二、八三、乙二五の8、三〇、北川証人(一部)、原告梅木)

一二月二五日、被告と組合は、組合対処方針に対する会社回答の内容に則って「社員制度に関する協定書」等の協定書、確認書を取り交わし、本件協定を締結した。(乙二五の1ないし9)

12  原告らは、一二月八日付けで、被告に対し、五五歳以上の社員に本件改訂後の各人の賃金内容を明らかにした明細書を交付するように書面で申入れを行い、同日付で、組合に対し、組合が被告に右措置を採らせるよう書面で申入れを行った。まだ、原告は、同月一七日付けの内容証明郵便で、組合に対し、本件改訂に異議を留め、たたかう権利を留保することを通知した。さらに、原告らは、平成五年七月三〇日、被告に対し、本件改訂への異議を申し立てた。(甲一〇の1、一一の1、一二、一三、七〇、一八九、原告梅木)

13  被告における標準的な社員の入社から定年までの賃金の傾向を旧賃金制度と新賃金制度とで比較すると、別表四のようになる。この場合に、旧賃金制度の例とされているのは、監督技能系社員として一八歳で高校を卒業して採用された社員であり、新賃金制度の例とされているのは、執務職採用社員として一八歳で入社した社員である。これらによれば、旧賃金制度、新賃金制度のいずれにおいても、五五歳に達するときに賃金が減額され、その後、再び上昇することには変わりはないが、減少幅は新賃金制度の方が大きい。その結果、五五歳から五九歳までの社員においては、新賃金制度による方が旧賃金制度によるよりも一万〇九八〇円ないし一万八七〇〇円多く減額されることになる。(乙一一)

また、この賃金モデルによる五五歳から五九歳の社員の基準内賃金の平均額は、本件改訂前においては三四万四八一二円、本件改訂後においては三三万〇〇三八円である。平成四年版の賃金センサスによれば、製造業の生産労働者で企業規模一〇〇〇人以上の場合の五五歳から五九歳の高卒労働者の所定内給与額は三三万七四〇〇円である。(甲一一四の3、乙一一、原告太田)

14  旧賃金制度から新賃金制度への変更により被告の社員の基本給額が一か月当たりどれだけ変動するかを次の四つの前提を置いて別紙計算式Aのとおり計算すると、別表五の1、2のとおりとなる。その前提とは、①ベースアップがなく、②本件改訂がなかったと仮定した場合に平成五年度以降の定期昇給における基準昇給額及び標準昇給額が平成四年度の基準昇給額及び標準昇給額とそれぞれ同額であり、③本件改訂がなかったと仮定した場合に五〇歳未満の社員の定期昇給の成績加給額は執務職社員で基準昇給額の0.5倍、基幹職社員で基準昇給額の0.7倍であり、④定期昇給における査定は1であるというものである。これらの前提は、①については、ベースアップは本件改訂の前後を通じてほぼ同額であると推測されること、②については、平成五年ないし九年の基準昇給額がいずれもほぼ同額であり、本件改訂がなかった場合もそれらの額はほぼ同一で推移したものと予想できること、③については、平成四年の定期昇給において成績加給額の財源が一般職社員で基準昇給額の五〇パーセント、監督職・主要職社員で基準昇給額の七〇パーセントとされていることにそれぞれよるものであり、定期昇給による査定を1とした④と相俟って標準的な基本給の推移を表したと評価できるものである。(以上、甲二、三、一六三、一七一ないし一七五、乙一一、一二、二五の4)

次に、職能給が本件改訂によって受ける影響を検討すると、改訂による移行時には、職能給(旧監督技能系社員においては作業給を含む)は、増加するか維持されることになっており、その時点で下がる者はない。しかし、中高年齢層の社員については、五五歳到達直後の四月又は一〇月において、職能係数が基幹職社員で0.08、執務職社員で0.03減調整されることによる職能段階別定額の減額がある(平成五年度は基幹職0.03、執務職0.01とされ、平成六年度は基幹職0.05、執務職0.02とされる経過措置がある。)。この減調整に伴う職能段階別定額の減少額月額は、ベースアップがないと仮定した場合、職能段階別定額に減調整の率を乗じた額であり、別表六の1のとおりとなる。旧事務技術系社員については、職能点単価や資格昇格時に付与される点数の変動による額の変化が想定されるところ、定期的に付与される職能点の標準点は旧賃金制度と新賃金制度とで同じ点数であり、成績評価が旧制度と新制度で変わらないと仮定すると職能点の単価141.721円から123.747円に変化したことによる変化のみを考えれば足りるから、標準者に定期的に付与される点数(乙二五の5の五頁別表(4))を基準として計算すると、一年当たりの減少額は、別表六の2のとおりとなる。旧監督技能系社員については、旧制度と新制度で成績評価が変わらないと仮定すると、職能点の標準付与される点数と職能点の単価の変更に伴う、職能給の額の変更を考えれば足り、その額を標準者(ただし、職能点が三一〇円ピッチで上昇する点数であることを前提とする。)について別紙計算式Bのとおり計算すると、一年当たり別表六の3のとおりとなる。また右の各減少額月額(職能給については、職能区分を通じて減額の大きい旧監督技能系社員の額を加味した。)を前記基本給の差額と合わせて新賃金制度と旧賃金制度の差額を試算すると、別表七の1、2のとおりとなる。この試算は、減額幅の大きい旧監督技能系社員の差額を用い、かつ、職能点が三一〇円ピッチで上昇することを前提としているため、全組合員の減額幅を平均した値よりは大きく減額される類型の者を想定した値となっている。そして、以上の試算においては、基本給特別措置を考慮に入れていなかったため、基本給特別措置を考慮に入れた場合の試算をすると、別表八のとおりとなる。(甲二、一六三、乙一一、一二、一五、二五の5、8)

次に、本件改訂により、五一歳ないし五四歳の社員の昇格の可能性が生まれたことにより、賃金にどのように影響するかを検討する。平成五年に五一歳ないし五四歳に達していた者がそれぞれの有する資格より一段階上位の資格に昇格したと仮定した場合に、資格の変更がなかった場合と比べた賃金額の差額を平成五年ないし平成九年について、別紙計算式Cにより試算すると、別表九のとおりとなり、その差額を各年度における当該年齢の賃金差額の試算額(別表八の額)と合わせて試算すると別表一〇のとおりとなる。この場合も、ベースアップはないものと仮定する一方で、基本給の定期昇給の増額、昇格による職能段階別基準額の増加に伴う職能段階別定額の増額、職能点の資格昇格に伴う付与及び昇格以降の年における定期付与の増加による職能点比分の増額を前提にしている。(甲二、一六三、一七一ないし一七五、乙一一、一二、二五の4、5、8)

なお、各別表における主務二級Bの表示は、職能区分が担当で資格が主務二級の者、主務二級Aの表示は、職能区分が主務で資格が主務二級の者、主務一級☆の表示は、職能区分が副主任で資格が主務一級の者をそれぞれ指し、以下においても同様である。

15  さらに、新賃金制度においてベースアップがないと仮定した場合に、五四歳から五五歳になったときに基準内賃金がどれだけ減額されるかを試算する。前提として、定期昇給及び職能給における成績をいずれも一とし、平成五年の各賃金の表及び定期昇給額を用いると、その額は、主任三万三〇六〇円、副主任一級三万一二五八円、副主任二級三万一四九八円、主務一級☆二万九八〇六円、主務一級二万六五四一円、主務二級A二万六七五一円、主務二級B二万六三四一円、担当一級二万六五七一円、担当二級二万六八〇一円、担当三級二万六七五五円となる。(甲二、一六三、一七一、乙一一、一二、二五の4、5、8)

16  鶴見地区における五五歳時の役職者が再任される状況についてみると、チーフリーダーの場合、平成七年度には全二九ポストのうち二ポスト、平成八年度には全一八ポストのうち二ポスト、平成九年度には全一四ポストのうち二ポストが、リーダーの場合、平成七年度には全一二三ポストのうち五ポストが、平成八年度には全八九ポストのうち四ポストが、平成九年度には全六九ポストのうち五ポストが再任者で占められている。(乙一一)

17  平成五年四月一日現在、被告の重工部門の社員数のうち、四〇歳以上である者が占める割合は六割を越え、監督技能系社員に限ればその割合はさらに高くなる。(甲一一三、一八八の2、原告太田)

18  組合の中央委員は、代議員の中から地区代議員会で推薦された候補者について組合員が一括信任投票することによって選出される。また、本件改訂のような従業員に関する制度改訂に関する組合の意思決定はほとんどすべて中央委員会で行われてきた。(甲七〇、八七、乙一、北川証人、原告梅木)

19  組合は、平成八年に解散し、組合の組合員は、日本鋼管労働組合連合会・鶴見労働組合の組合員となったが、その後の平成一〇年六月二三日、右組合の組合規約改正の提案に関し、一般投票が行われ、右組合規約改正は否決された。(甲一四二の1、2)

20  原告ら各人の平成四年度ないし平成一一年度における各年度四月分の基準内賃金の額、夏季及び冬季慰労金の額、成果還元給の額は、別表一の「支給実績」欄のとおりである。なお、同表の「原告主張」欄記載の金額は、一九九九年九月八日付け原告ら準備書面の別紙各「原告の新旧賃金比較」表の各金額を転記したものである。(乙三一)

二  争点1について

原告らの本件確認請求は、要するに、原告らが旧制度に基づく賃金の支払を受ける地位にあることの確認を求めるものであり、原告らが実際に支給された賃金額と原告らが主張する一定額(この額が新制度による賃金と旧制度による賃金の差額と原告らが主張する額である。)との差額の支払を受ける地位の確認を求めている。ところで、確認の訴えは、確認の訴えという方法を採ることが権利の実現のため適切な場合にのみ訴えの利益を認めるべきところ、原告らは、右一定額の各原告の退職までの累計額の支払を求める給付請求も併合して提起しており、原告らの権利の実現のためには、この給付請求によれば十分であり、確認の訴えという方法を採る必要はないから、本件確認請求の訴えの利益はなく、本件確認請求は却下を免れない。

三  争点2について

1  本件協定の有効性及び規範的効力について論じる前提として、主に五五歳以上の組合員が本件協定により受ける不利益の程度について検討する。右一14の事実によれば、標準的な組合員で、経過措置や基本給特別措置がないとすれば、新制度と旧制度を比べると、月額賃金において概ね二万円ないし三万円程度の減額になると考えられる。これは、右一3(三)に摘示の被告における平成四年当時の五五歳ないし五九歳の組合員の基準内賃金の平均の月額である三二万六〇〇〇円の約6.1パーセントないし約9.2パーセントに値する。また、右基準内賃金の平均月額から三万円を差し引いた額は、二九万六〇〇〇円となる。右金額そのものは、右一13の賃金センサスの額を下回るが、ボーナス支給も勘案して比較するために、右の金額を一二分の一六倍(乙三一によれば、被告におけるボーナスを含めた年収は一か月分の基準内賃金のおおよそ一六倍であることが認められる。)すると、その金額は、三九万四六六六円となり、同金額は、右一3(四)の五五歳ないし五九歳における年齢別の標準生計費の推計値の額を一〇万円以上も上回るのみならず、また、同所摘示の子供が大学進学世帯の一歳別の生計費額、同(五)の五五歳ないし五九歳の層の消費支出額をいずれも上回る。

2  本件協定の有効性について

原告らは、本件協定が法令等に違反し、また、不合理なものであるので無効である旨主張する。

(一) まず、原告らは、中高年労働者を不利に取り扱うことが憲法一三条、一四条、二五条、二七条に違反すると主張する。原告らの指摘する憲法の規定はいずれも国、公共団体と個人との関係を規律するもので、私人相互間の関係を直接規律することを予定するものではないが、私的支配関係においては、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害又はそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、場合によっては、民法一条、九〇条や、不法行為に関する諸規定の運用によって私的自治の原則と基本的な自由や平等の利益との調整を図るべきであると考えられる。そこで、まず、本件協定が憲法一四条一項の定める平等原則に違反するものかどうかという点から判断する。

憲法一四条一項は、年齢による差別を明示的には禁じていないが、雇用関係において、年齢による取扱いの差が合理性を欠くならば、右条項の違反となり得ると解すべきである。本件協定が一定の年齢に達した者に対して賃金を減額するものであることは確かであるので、まず、年齢により賃金を変動させる制度が平等原則に反するかどうかという点について検討する。賃金は労働の対償であるから、その額は、労働の質及び量によって決定されるのが原則ではあるが、労働者が専ら賃金によって生活の糧を得るという意味からは、賃金は生活保障の手段であるという意味も否定できず、労働者の賃金を決定する際には当該労働者及びその家族の生活保障という面も考慮に入れる必要がある。そして、労働基準法などの法令には労働者の年齢にかかわらず同一の労働に対して同一の賃金を支払うべきことは定めた規定はないし、同一労働同一賃金の原則を定めていると原告らが主張する経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約七条(a)も同一価値の労働についての同一報酬を受ける権利を保障すると共に労働者及びその家族が右規約に適合する相当な生活を送る権利を保障していることからすれば、労働者の生活費の多寡を賃金決定の際に考慮し、その結果として、同一労働に対する賃金額が異なってくるとしても、不合理ということはできない。そして、通常、年齢に伴い生活費の多寡が変動する以上、年齢に応じて賃金の額を変動させることもその内容が生活費の傾向を反映したものであり、かつ、賃金の低い労働者の賃金額か不当に低いものでなければ、決して不合理ではないというべきである。我が国においては、勤続年数や年齢につれ賃金が逓増するいわゆる年功賃金の制度が多く用いられているが、このような制度も、我が国においては長期雇用制度がかなり一般的に採られていることを考えれば合理的な制度である。

そこで、本件改訂について検討する。そもそも、被告における旧賃金制度は、一2の事実によれば、賃金の上昇率は五〇歳を境に低くなるものの、本給と職能給は、ともに六〇歳の定年まで一貫して上昇するものであり、年齢給が五五歳、年齢加給が五〇歳からいずれも下降することから基準内賃金は五四歳をピークに五五歳から若干下降することがあるものの、基本的には、年齢や勤続年数によって賃金が逓増する年功賃金を基調とするものである。これに対し、本件改訂は、一4に摘示のとおり、若手従業員の定着のための処遇等の改善、年功的な要素も否定しないものの、今まで以上に能力主義を強化することを目的として、総人件費一定の考え方の下、五五歳以上の組合員の賃金を減額した原資により、若年・中堅層の賃金を上昇させることとしたのである。

数多くの従業員を有する大企業においては、各年齢層の従業員がほぼ等しく存在することが適正な業務への適正な人員配置を図る面や技術等の継承の面で望ましいところ、右一3(二)の事実によれば、被告においては若年労働者の新規採用に苦心する状況にあり、若年労働者の採用を伸ばすための何らかの方策を採る必要性があったことが認められる。そして、そのためには若年・中堅層の待遇を改善するということは合理的な方法であり、右一14の事実によれば、本件改訂により、四〇歳代までの被告社員は年齢によりばらつきはあるものの、概ね月額数千円ないし約八〇〇〇円程度の賃金の上昇が見込まれることからすれば、その目的は果たされることとなる。そして、右一3(三)ないし(五)に認定した生計費等の傾向を考え併せれば、五五歳以上の労働者についてはそれより若年の労働者に比べ生活費が減少する傾向にあること、一3(三)に摘示の平成四年度の五五歳以上の組合員の基準内賃金の平均月額である三二万六〇〇〇円から三万円を減じた金額である二九万六〇〇〇円は、全組合員の基準内賃金の平均である二八万八〇八三円を上回ることが認められることに鑑みると、五五歳以上の組合員の賃金が三万円減額されたとしても不当に低い賃金であるとまではいえず、本件改訂による賃金制度が不合理であるとはいい難い。この点に関し、原告らは、若年層中堅層の待遇の改善は、別の財源によって行うべきであり、高年層の賃金を減額することによって行うべきではないと主張するが、右一3(一)に摘示のとおり、被告の財務状況は年々経常黒字額が減少していく状況であり、被告において、総人件費一定の目標の下で賃金制度の改訂を行うことは、企業の将来にわたる存続、ひいては現存する従業員の将来にわたる雇用の確保のためにはやむを得ない面があり、あながち不合理とはいえない。なお、原告らは、実際には、本件改訂により総賃金額が減少し、その分の差額が会社に留保されることになると主張するが、この点は、現実の賃金の変動をみて、被告が実際に賃金としてどれだけの費用を要しているかにより認めるべきところ、この点を的確に認めるに足りる証拠はない。

原告らは、年功賃金制度は、若年の間低賃金に抑えられることによっていわば「会社に貯金」していた賃金を生活費等の支出が増加する高年層になって賃金が増大することによっていわば「払い戻す」制度であるところ、本件改訂により右払い戻しを受ける権利を奪われたと主張する。なるほど年功賃金制度には原告らが指摘する点が含まれることは容易に理解し得るが、右一1の事実によれば被告においては、定年年齢は昭和五六年四月までは五五歳であったものが、それ以降、段階的に六〇歳までに延長されたものであることが認められるから、仮に「貯金を払い戻す」立論に従うとしても、右延長の実施前においては、五五歳に達するまでに原告らが主張する「貯金の払戻し」は終えていたはずのものであり、五五歳以降の賃金については「払戻し」の点を考慮することなく労働協約等により定めることができるものと考えられる。また、定年延長導入の際に五〇歳以上の組合員の定期昇給額が五〇歳未満の者の概ね三〇パーセントに減額されたことにより「会社に貯金」していた賃金についても、右に述べたように平成四年において五五歳ないし五九歳の基準内賃金の平均が三二万六〇〇〇円で全年齢の平均である二八万八〇八三円よりも約四万円上位にあることを考慮すると、本件改訂により基準内賃金が二万円ないし三万円切り下げられたとしても、なお払戻しを受け得るものとも評価できる。

その他、本件改訂は、総賃金財源を一定としたまま、若年・中堅層の賃金を上昇させると共に、高年層の賃金を減少させるものであり、一部の組合員には不利になるものの一部の組合員には有利になるのであって、およそすべての労働者に不利益を与えるものではないこと、右一15によれば、五四歳から五五歳になったときに減額される賃金は約二万六〇〇〇円ないし約三万三〇〇〇円程度であることが認められ、全体の賃金額に対して多額であるとは必ずしもいえないこと、本件改訂時において、五五歳以上の賃金を切り下げるという賃金体系を採用している企業は多いとまではいえないが稀であるともいい難いことを考え併せれば、本件改訂にまる五五歳以上の社員の賃金の減額は不合理なものということができず、憲法上の平等原則に反しているとはいえない。

(二) 次に、憲法一三条、二五条、二七条の違反について検討するに、これらの規定は、いずれも抽象的宣言規定か、国に対し、社会福祉や社会保障、雇用の機会の保障等の面において立法上・行政上の施策を講じる責務を定めたものであって、これらの諸規定から直ちに本件改訂が無効であると断じることはできない。

(三) 労働基準法三条違反の有無については、同条は、差別的取扱を禁止する事由として年齢を掲げていないが、仮に、同条が合理性を欠く年齢による差別的取扱を禁止しているとしても、憲法一四条に関し右に説示したところによれば、本件協定は労働基準法三条に違反するものではない。

(四) 次に、原告らは、本件改訂が、世界人権宣言、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約六条、七条、ILO第一六二号勧告等に違反すると主張するが、これらはその規定の形式等からみて、いずれも国内の私人間の関係を直接に規律するものとはいえないから、これらの違反のみをもって本件協定が無効であると主張することは失当である。

(五) 原告らは、本件協定が不合理である故に無効であるとも主張する。その趣旨は必ずしも明らかではないが、公序良俗ないし信義則に違反し無効である旨の主張と解釈すると、右に説示したように、本件協定は、五五歳以上の社員の賃金を減額するものではあるが、年功賃金制を能力主義も加味した制度に変更することは不合理ではなく、その結果五五歳以上の者の賃金が減額されるとしてもその額が多額とまではいえないこと、五五歳ないし五九歳の組合員の賃金が旧賃金制度による賃金よりも三万円減額されると仮定した場合でも、右1に説示したように被告における五五歳ないし五九歳の組合員の平均基準内賃金額から三万円を差し引いた額は公刊物に掲載された生計費等の額を上回っているのであるから、右の基準内賃金額が税金や社会保障費等を含んだ額であるとしても組合員に苛酷な結果をもたらすとまではいえないことからすれば、被告と組合との間で締結された本件協定自体が公序良俗ないし信義則に反するもので無効であるとはいえない。

3  本件協定の規範的効力について

(一) 労働協約のいわゆる規範的効力は、労働組合法一六条により発生するところ、同条の趣旨が、標準的画一的な労働条件を定立するとともに、労働組合の団結力と統制力、集団的規制力を尊重することにより労働者の労働条件の向上等を図ることにあると考えられることに照らせば、既に発生した賃金等の請求権を奪うとか労働者の既得権を奪うとかの内容の協約を締結することは、集団的処理をなしえない労働者の個人的な権利を侵害するものであって、労働協約によって規律しうる事項の範囲を超えるから、規範的効力は生じないと解すべきである。本件協定は、主に五五歳以上の組合員の賃金を減額するものであるが、既に発生した賃金を減額するものではないし、五五歳以上に達した後も賃金が上昇していくとの期待は既得権として保護されるものともみるべきではないから、本件協定の内容は労働協約として規律しうる事項の範囲内に含まれ、規範的効力が原則として生じる。

(二) 本件協定は、組合と被告との間で締結されており、右(一)に説示したようにそのうち労働条件等に関する基準を定める部分については規範的効力が原則として生じる。そして、右の原則の基となる労働組合法一六条の趣旨が右(一)に述べたものであることに照らせば、特定又は一部の組合員に不利な労働条件等を定める労働協約であっても直ちに規範的効力が生じないということはできないが、そのような労働協約が労働組合の目的を逸脱して締結されたと認められる場合には、その規範的効力は否定されると解すべきである(平成九年三月二七日最高裁判所第一小法廷判決、裁判集民事一八二号六七三頁、労働判例七一三号二七頁(朝日海上火災保険(石堂・本訴)事件)参照)。そして、労働協約が労働組合の目的を逸脱して締結されたかどうかの判断に当たっては、組合員に生じる不利益の程度、当該協約の全体としての合理性、必要性、締結に至るまでの交渉経過、組合員の意見が協約締結に当たってどの程度反映されたか等を総合的に考慮することが必要である。

(三)(1) 本件改訂により、五五歳以上の組合員に生じる不利益は右1に説示したとおりである。もっとも、平成五年及び平成六年のおいては経過措置及び基本給特別措置により、また平成七年ないし平成九年においては基本給特別措置により、その不利益は軽減される。なお、右一11の事実によれば、基本給特別措置は、成果還元給財源を取り崩すことによって行われることが認められ、本来組合員に対し、他の名目で支給されるべき賃金の一部を流用した制度であることが窺われるが、成果還元給の性質やその支給基準については主張立証がないため、成果還元給財源の取崩しにより組合員に生じる不利益の有無及び程度を認めることができず、したがって、基本給特別措置は経過措置としての意味を持つものと認めるべきである。また、高年層において資格昇格の機会が増加したことも代償措置として評価すべきと考えられるから、資格昇格した場合に高年層に見込まれる賃金の上昇について検討すると、右一14の事実によれば、平成四年に昇格した場合では主務一給☆から副主任二級に昇格した場合と副主任一級から主任に昇格した場合には五五歳以降の不利益を上回るか埋め合わせる程度の賃金の上昇が見込めるが、それ以外の昇格の場合には、不利益は多少ないし相当程度軽減されるものの解消されるには至らず、この傾向は他の年及び年齢において昇格した場合も概ね変わらないものと考えられる。

(2) 右に説示したところ及び2(一)に説示したとおり高年層の賃金の減少が不合理なものとはいえないことを前提としつつ、本件協約締結に至る手続について検討する。まず、一8の事実によれば、中央委員会は大会休会中のすべての事項について議決をする権限を有し、また、労働協約の締結については大会の付議事項でもないのであるから、中央委員会で意見集約をしたことについては、組合規約上は何ら問題はない。

原告らは、本件改訂に当たっては組合員の意見が適切に反映されておらず、本件協定には規範的効力は生じないと主張する。すなわち、本件改訂のように組合員の一部に不利益を及ぼすような労働協約を締結する際には、組合は、一般投票や組合大会の議決を求めたり、不利益を受ける者について個別的に意見聴取をすべきで、本件改訂の際に行われたような中央委員会による意見集約では不十分であるとか、中央委員会において集約するとしても組合員の個々の意見の聴取が不十分であったとかの主張をする。この点について検討すると、北川証人の証言によれば、本件改訂については、中央委員会の場で大会で決議すべきという意見があれば大会を開いて決議することや、一般投票にすべきとの意見があれば一般投票を行うことは可能であったことが認められ、本件改訂について、大会や一般投票による決議がなされなかったのはそのような意見が中央委員会で出なかったためであると推認される。また、組合員の三分の一以上の請求があれば臨時大会を開催し得るところ、本件全証拠によるも、原告らをはじめとする組合員が臨時大会の開催に向けて組合員の三分の一以上の同意をとりまとめようとしたことを認めるに足りないのであって、中央委員会で意見集約をするという方法を採ったことには何ら不当な点はない。

また、右に説示した労働組合法一六条の趣旨からすれば、労働協約の労働者側の当事者である労働組合は、様々な要素を総合的に考慮して組合員の労働条件の集団的引上げの目的のために労働協約を締結するのであるから、組合員の総体的な意見をおよそ反映しない労働協約を締結することが許されないのは当然であるが、組合員の個々の意思をすべて反映した労働協約を締結することは困難であるばかりか、却って右の労働組合法一六条の趣旨に反することにもなりかねないと解される。したがって、労働協約の規範的効力との関係で、労働協約の締結の際、組合員の意見をどの程度採り入れることが必要であるかについては、結局、当該労働協約が組合員に対し与える不利益の程度とも関連して、当該協約の締結が労働組合の目的を逸脱して締結されたと評価されるかどうかという観点から個別的に判断しなければならない。

本件改訂は既に発生した賃金を減額するものではないし、将来賃金が上昇するという期待を害するものではあるが、その額は大きいとはいえず、また、その期待も六〇歳への定年延長が最終的に実現した平成三年に至って初めて得られた期待で従業員たちが長期にわたって享受してきた期待とはいい難いことからすれば、その不利益を甘受することについて一般投票や組合大会の議決を行って全組合員または代議員の直接多数決による賛否を求めたり、通常の組合における意見集約の手続に加えて不利益を受ける者について個別的な意見を聴取する必要までがあるとはいい難い。

(3) 次に、本件協約締結に関し組合員の意思が協約締結にどの程度反映されたかを検討する。まず、右一10、11の事実によれば、職場討議の際、投票や挙手による議決を行った職場は少ないが、このことが直ちに組合員の意見が反映されなかったということを意味するものではない。代議員一任という結論を採ることも参加者の意思によるものであれば不当とはいえないが、原告らが主張する以外の職場討議においてどのような過程で代議員一任等の結論に至ったかについては主張立証がなく、これらの職場討議が組合員の意見を反映しないものであったということはできない。また、本件協約締結に当たっての職場討議においては、拍手による採決やその場にいない者に対する電話等での聞取り採決という方法(組合対処方針に関する浅野ドック機電工場(右一10(四))、浅野ドック船渠工場(同(五))、最終集約に関する浅野ドック機電工場(右一11(二)))が採られており、原告らはこれらの採決の方法が組合民主主義に反し不相当であったと主張するが、組合規約は職場討議と同様のものであると考えられる職場集会について「組合の意向伝達と職場の意向を把握し、組合員と組合の意思疎通をはかることを目的とする。」と定め、議決方法については定めておらず、職場討議においては、その性質からみても、厳格な議決方法が採られなくても不当ではないと解される。そして、実質的にみても、前述のような本件改訂による不利益の程度を考えれば、組合員の個別の意思やある特定の集団的な多数意思を忠実に反映する必要はなく、組合員の意見の傾向が協約内容に反映されると評価できる改訂が行われる限り、組合の目的を逸脱したものとはいえないと解するのが相当である。したがって、右のような意見集約の方法も不可能ではない。

さらに、原告らは代議員が職場討議の状況に逆らって強引に意見をまとめた旨の主張をする。右一10及び11の事実によれば、原告らの見聞した状況と代議員の出した結論とが異なっていた場合があったことが認められる。しかし、組合対処方針に関する海洋鋼構造工場(右一10(二))では賛成一名反対一名という態度の表明にふさわしい拍手の状況であった可能性も否定できないし、最終集約に関しても構内出向者の集会(右一11(四))においては最終的に代議員一任で行われたと考える余地があり、また、海洋鋼構造工場(右一11(五))で、代議員が賛成の拍手を聞いただけで採決を打ち切ったとしても、右拍手の音の大きさから反対の拍手を聞くに及ばないと判断したとも思われ、これらの点はいずれも、必ずしも不当とはいえない。むしろ原告らが反対の意思を表明し、かつ、他の組合員に対して希望の会名義の多数の文書を配布した(甲一四の1ないし13など)にもかかわらず、多くの組合員は組合対処方針や最終の意見について特段の意見を持っていなかったことが窺われるから、客観的にみれば代議員の出した結論が相当であったと考える余地は十分にある。

原告らは、職場集会においては作業長・工長などの職制組合員なるものが組合員の動向を監視しており、組合員が自由な発言をし難いと主張し、原告梅木はその旨の供述をし、甲一七、一八、二二、七〇、二〇五、二一二の原告らの陳述書や甲一一一の見取り図には、それに沿う内容がある。なるほど、右供述や陳述書等によれば、職場集会の際には、作業長や工長などが出席していることは認められるが、それらの者も組合員であって、職場集会に参加する資格を有していることに加え、それらの者が、平成四年当時においても職場討議の際に組合員がどのような意見を表明するかを監視していたことについては裏付けの証拠もなく、かえって、甲一九五の1には、工長が組合対処方針の採決に反対したとの内容があり、以上によれば原告ら以外の組合員が組合執行部の意向に反した意見を有していてもそれを表明することができない状態にあったとはいい難い。また、原告らは、職場集会等への組合員の出席者が少ないのもそのためであるとの主張をするが、この点についても裏付けがない。結局、原告らのこれらの主張には理由がない。

そして、右一10に摘示のとおり、本件改訂については賃金の減額に対する反対の声を含め組合員から様々な意見の表明があり、それが代議員会や中央委員会の場で取り上げられていること、組合は組合員に対し、それらの意見を発表していることが認められる。また、右一9、10に説示したように、組合は、被告から本件協定等に関する提案があった後、中央労使協議会を五回、専門交渉を三回行い、中高年層に対する経過措置を会社に求めており、これらの交渉の結果、職能給の減調整についての経過措置と基本給特別措置が導入されたのであり、さらには組合は、第四回中央労使協議会の後に二役折衝を行い、その後に被告から基本給特別措置の導入の回答を得たうえ、その意思を決定する際に組合員の右意見を織り込み、かつ、最終的に右意見の一部を被告に取り入れさせているのである。これらの経過によれば、組合が組合員の意見を集約するに当たって適正な手続を取らず、その結果本件改訂が組合の目的を逸脱するような手続で行われたということはできない。

(4) 原告らは、被告や組合が組合員に対し本件改訂に関し正確な情報を提供しなかった結果、組合員が本件改訂の不利益性等について正確に認識できず、本件改訂についての正当な判断をすることができなかった旨の主張をする。確かに、被告も組合も、被告に現に在籍する従業員各人について本件改訂により賃金がどのように変化するかに関して具体的な数値を示さなかったし、組合が組合員に対し乙二〇の3により本件改訂にかかる移行措置による各人の賃金の変動の計算式を示したのは本件協定が締結された後である。しかし、甲二の二一頁によれば、被告は、五五歳以上の従業員の賃金が現行を下回ることになるのを明らかにしていたこと、甲九によれば、組合は、組合員に対して、平成四年四月一日現在で五五歳の監督技能系の主事一級の組合員の基準内賃金が旧制度と比較して平成五年において一万四〇〇〇円余り、平成六年において二万一〇〇〇円余り、平成七年において二万七〇〇〇円余り減少することを明らかにしたことが認められる。これらによれば、組合員においては、五五歳以上になると二万円以上の幅で基準内賃金が減少することは予測できたというべきであり、一14に認定したように被告の従業員の基準内賃金の本件改訂による賃金減少の幅が概ね二万円から三万円の範囲に収まることを考えれば、組合員は、賛成反対の態度を表明したり、質問をすることができる程度の情報の提供を受けていたというべきであり、賃金の推移に関する情報提供が不足であったということはできない。さらに原告らは、甲九に掲載された被告の旧制度を他社と比較したグラフが賃金水準の高い三菱重工業を除いた平均値を掲載したもので恣意的なものである旨の主張をする。右一10の事実によれば、この他社のグラフは造船業五社の平均値であり、三菱重工業は含まれていない。しかし、北川証人は三菱重工業の労働組合からは賃金に関する情報を得ることができなかったと証言し、また、仮に、三菱重工業の賃金水準が他の造船業大手の賃金水準に比べ高いものであったとしても、甲九のグラフの五〇歳から五五歳の部分は平均値と被告のグラフが相当差がついていることからみて、三菱重工業の賃金の情報を組み入れた平均値と被告の値を比較した場合に、中高年層が他社と比べて優位にあるという傾向を破るものになったかどうかは不明であることからすれば、このグラフによって恣意的な情報や虚偽の情報を伝えたとは言い難い。原告らは甲一六九により、被告の賃金水準が同業他社と比べて低い水準にあったと主張するが、右一3(八)に認定したように、同号証には賃金額に「実態値」や、「モデル」との注記の付された企業があり、これらの数字が他の数字と異なる種類のものであることが窺われることからして、単にこれらを比較することによって賃金水準を比較しうるかどうかが不明であるため右主張を採用することはできない。また、原告らは、組合がそれまでは被告の賃金水準が低いとの主張を被告に対して行っていたのに、本件改訂に当たっては、中高年層の賃金水準が優位にあるとの被告の主張をそのまま受け入れたことを非難するが、前者は全体としての賃金水準の低さを訴えてきたに過ぎず、中高年層の賃金水準が優位にあるとの組合の示した見解と何ら矛盾するものではない。

(5) なお、中央委員会により組合の意思決定がなされたことに関し、原告らは、被告の組合に対する不当な干渉により、組合と被告が癒着した状態になり、その結果、高年層の賃金を減額する本件協約については、中央委員会による集約がなされたと主張する。しかし、右に説示してきたように中央委員会による意見集約は決して不当なものではない。そのうえ、甲五〇、五二、九三、北川証人によれば、平成八年ころまで鶴見二八会(以下「二八会」という。)という組織が存在し、少なくとも一部において労使協調的な考え方を持っていたこと、甲二九、五四、五五、九一、乙二五の1ないし7、大野証人によれば、二八会会員であり、本件協定締結の際に組合の中央執行委員を務めていた竹花敏夫が統轄スタッフに昇進していること、その他にも、一般職採用で組合の幹部を経験した者が統轄スタッフに昇進をしていること、一般職採用者で統轄スタッフに昇進する者は稀であることが認められるが、他方、大野証人の証言によれば、組合の幹部を務めなかった者でも、同様の昇進をしている者のいることが認められ、組合において会社に迎合するような活動をしたからその論功としてその者の能力以上に特に昇進が得られたということはできない。甲二九、三〇の1、2等の文書はいずれもかなり古いものであり、これらにより、平成四年当時において被告から二八会や組合に対する不当な干渉があったことを認めることは到底できないし、その他、被告が平成四年当時において、二八会等を通じて、組合に対し不当な干渉をしたり、組合と被告が癒着していることを認めるに足りる証拠もない。

また、原告らは、被告からの提案がなされた直後に中央委員会で集約することが決定されたことも被告が組合員の意見を無視したことの現れであると主張するもののようであるが、一11に摘示のとおり、組合は組合員に対し一二月一九日の中央委員会で最終集約を行うこと自体を提案していて、それについても組合員の意見を求めていて、被告からの提案直後に中央委員会での集約を決定したわけではないし、また、右一18に摘示のとおり、協約の締結に関する意見集約は中央委員会で行うことが通常とされていて、手続的に今回のみ通常と異なる方法を採ったということもないから、原告らのこの主張も失当である。

(四) 右認定の判断のとおり、本件改訂は五五歳以上の者の賃金を減額するものではあるが、減額される金額が大きいとはいえず、経過措置も存在する点で本件改訂による新制度が五五歳以上の者にとって苛酷であるとまではいえないこと、若年・中堅層の待遇の改善という目的に則り、それによる成果が見込まれると認められることからして本件協約を全体としてみた場合に不合理であるとか、五五歳以上の組合員をことさら不利に扱うことを目的として締結されたものとは言い難いこと、本件改訂に至る手続が組合規約に則ったものであるとともに、組合員の意見を全く聞かずに一方的に進められたとまではいえず、本件改訂による不利益との関係で組合員の意見を適切に考慮せずに締結されたものとは評価できないことを考え併せると、本件改訂は組合の目的を逸脱して締結されたものとはいい難く、本件協定には規範的効力が生じると解すべきである。

四  結論

よって、本件確認請求は、不適法であるから訴えを却下し、本件給付請求は、その余の点について判断するまでもなく(原告らの本件給付請求のうち将来発生する賃金を請求する部分については、原告らは具体的な額を特定して請求し、賃金債権は原告らが被告に対する労務提供を続ける限り常に発生するものであるところ、被告が本件改訂の後に原告ら主張の賃金を支払っていないことは明らかであり、原告らが将来発生する賃金を予め請求する必要性も認められるから、訴えの利益が認められる。)理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六五条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・南敏文、裁判官・矢澤敬幸、裁判官・須賀康太郎)

別紙<省略>

別表一〜一〇<省略>

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